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1999. 10. 15開催, 1999. 10. 18記
Held 15 October 1999, written 18 October 1999

東大電気系学科 O. Stalder 氏講演会印象記
Lecture by O. Stalder, SBB, Switzerland

講師の Oskar Stalder 氏は SBB (スイス国鉄) の人。 もともと電気系の技術者で、 IRSE(世界鉄道信号学会(?))のフェローだったりする信号の専門家だが、 いまではインフラストラクチャー計画部長とかいう要職にある。 講演会を主催した東大の曽根教授によれば、 「日本ではこの種の仕事は土木系技術者がするのが普通だが、 ヨーロッパでは広義の電気系技術者の担当領域がこうした分野にまで広がりつつある」 とのこと。 本当なら羨ましい限りだ。

氏は、 東大の交通システム工学寄付講座が1996年11月に招待したスイス人4人のひとりで、 当時4人の訪日団のリーダー役をつとめてくださった。 高木がお会いするのはそれ以来で、 当時のことなど懐かしくお話しすることができた。

本日の講演内容の詳しい資料は配布されなかったが、 簡単にいうとプロジェクトの国際比較を公平に行う手法を提供するための研究を UIC で行ったとのことで、 今週(10月18日の週)に国立で行われる WCRR での発表内容を先行してご紹介いただいた。

研究の内容は、 まず 「標準的」 な鉄道プロジェクトのライフサイクルコストを計算できる 「モデル」 を作成し、 UICで集めた各国の実在プロジェクトのデータを元に検証した。 このモデルによる各実在プロジェクトのコストの計算値は、 実費用と比較して高かったり安かったりするが、 「平均的な」 モデルのほか best practice モデル (「もっとも安くあげた」 場合を想定したモデル) を作成して実プロジェクトと比較することにより、 実在プロジェクトの説明になっていることが検証できる。

比較評価は、 鉄道事業者(国)相互の比較ではなく、 このモデルによる計算値との比較としたことがミソであるらしい。 確かに、 相互比較をやり出すと独仏のように喧嘩し出す国が現れそうである。 実際UICでもこのために揉め事が持ち上がり、 研究が1年ほどストップしたこともあったようだ。 最終的には、 研究に参加した各国はさすがにどれがどの国のデータだかわかるものの、 それらは匿名で公表され、 部外者はモデルの計算値と実費用との比較だけが見えるようにすることで、 参加者が納得するようになったらしい。

実際比較をやってみると、 モデルより高めに出る鉄道事業者や低めに出る鉄道事業者など、 事業者ごとの特性が見えて興味深い。 さらにモデルとの比較でいいと思うのは、 システムのどの部分が高いかがわかることだ。 例えばある鉄道では分岐装置が多いためにその保守コストが全体のLCC (ライフサイクルコスト) を押し上げているとか、 別な鉄道では高架橋等のキロ当たり建設費は安いが路線長全体に占める割合が多いためコスト増要因になっている、 とかいったことが見えてくる。

この種の手法の考え方は、 別な分野でも応用ができそうだ。 日本では昨今電力料金が高いと批判が強かったが、 電力の部分的な自由化で登場したIPPの中に、 契約で決めた料金ではやって行けないとの理由で、 違約金を払って事業を中止したところも出てきている。 このことは、 こうした手法に類する定量的な評価手法がなかったために、 参入時のコスト算定が甘かったことに原因を求めることができそうである。

もっとも、 最近の山陽新幹線の状況など見ていると、 このような科学的な手法もなかなか適用は難しいかな、 と思えてくる。 山陽のケースは明らかな施工不良だが、 LCAでは必ず設備の寿命を推定しなければならず、 このようなことがあればその推定値に大幅な狂いを生じかねないからだ。 そのような施工不良による寿命短縮が事前にわかっていれば、 建設時の(不正な)コスト低減が後の保守費の増大につながる形で評価できることにはなるのだが…。

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高木 亮 / TAKAGI, Ryo webmaster@takagi-ryo.ac
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