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デジカメ便り(3): ミッドランド・メトロ
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ページ執筆 2002. 9. 26
最終更新 2002. 9. 26

「ミッドランド・メトロ」

バーミンガム・デジカメ便り 第3回

地下鉄はないが、Metro はある

先日バーミンガムに僕の顔を見にやってきた両親が、 タクシーの車窓から見える「Subway」なる標識を見て 「地下鉄があるんだね」といった。 しかし、実際にはバーミンガムには地下鉄はない。 これは米語と英語の違いから来るよくある間違いで、 この辺で subway といえば道路などの下をくぐる地下道のことを指すのである。 日本の辞書によれば、 英国の用法では地下鉄は underground だ、 と書いてあるものが多い。

もっとも、それはそれで確かに間違いないのだが、 実際にどう呼ばれているか調べてみると若干混乱もあるようだ。 例えば、地下鉄発祥の地・ロンドンでは Tube のほうが一般的。 ここのところ Railtrack 破綻のあおりで新聞にロンドン地下鉄の問題が掲載されることが多くなったが、 その場合も Tube と見出しに出てくる。 また、 Glasgow には世界で3番目に古い地下鉄 (2番目は Budapest)があるが、 地元では Glasgow Subway と呼ばれている。 「世界の地下鉄」などという場合、 Metro という言葉を使うようで、 そういう表題の本を書店でいくつか見つけることもできる。

そして、バーミンガムの場合、 1999年5月に Midland Metro Line 1 が開業したため、 「地下鉄はないが、 Metro はある」 という、 ややこしい状態になっている。

廃止、また復活

バーミンガムは人口約100万人、英国第2の都市だ。こ のバーミンガムを含む West Midlands County(ウェス ト・ミッドランズ州)の人口は約255万人、人口密度で 3000人/km2程度。地下鉄があったとしても不自然とはい えない規模だ。そんなふうだから、都市鉄道はそれなり に発達している (図-1)し、利用者も少なくない。

(注) 図-1 バーミンガム周辺の鉄道路線図(Centro ホームページ http://www.centro.org.uk/ より許可を得て引用) は、 雑誌掲載の原文では実際に同サイトから借用した GIF ファイルを使用しましたが、 ウェブ上では直接見られるわけですから掲載しません。 かわりにリンクを用意しましたので、 これをたどってくださいますようお願いします。

だが、これらの路線のうちいくつかは、 過去に一度廃止になった鉄道を再整備したものらしい。 例えば、city centre の直下を抜ける Snow Hill Tunnel (Birmingham Snow Hill - Birmingham Moor St 間) は、 1968年に廃止され、 1987年に復活している。 そこからさらに先、 Jewellery Quarter・ The Hawthorns・ Smethwick Galton Bridge の各駅を含む区間も1995年の再開業だそうだ。

現在ある Midland Metro の路線20.4kmのほとんど、 つまり Birmingham Snow Hill から Priestfield の少し先までの約18kmも、 過去に幹線鉄道だった線路跡を再利用したものである。 Great Western Railway とその関連会社が建設した鉄道で、 ロンドン Paddington(パディントン)ターミナルから Oxford(オックスフォード)・バーミンガム Snow Hill を経由し、Wolverhampton(ウルヴァハンプトン)、 あるいはもっと先の Chester などの都市を結んでいた。 最終的には Liverpool や Manchester などに到達するつもりだったようだ。 1850年代の開業当初は超広軌 (2140mm=7 ft. 0 1/4 in.) の鉄道だったが、 ほどなく標準軌に改軌されている。

長らく Paddington からの長距離列車が走る鉄道であったが、 1960年代に Euston(ユーストン) ターミナルからバーミンガムまでの鉄道が電化される際、 ほぼ平行するこちらの路線は廃止の方向が打ち出された。 非電化鉄道には苦しい急勾配 (1/45、22.2パーミル) の Snow Hill Tunnel の廃止をかわきりに、 旅客列車は半ば強引に廃止に追い込まれたらしい。

それから30年近くを経て、 このルートの大部分を再利用する形で1999年5月に開業したのが、 この Midland Metro というわけだ。


ミッドランド・メトロ05号車
(Photo-1): Wolverhampton St. George's ターミナルに停車中の Midland Metro 05号車。車両は Ansaldo(Adtranz)製で、 編成全長24.36m、車体幅2.6m。 (2001. 9. 9 撮影)
ウルヴァハンプトンのウィッシュボーン橋を通過中のミッドランド・メトロ電車
(Photo-2): Wolverhampton 終点付近の The Wishbone Bridge を通過中の Metro 電車。 (2001. 9. 9 撮影)

「トラム」=安全対策をさぼる言い訳

Birmingham Snow Hill 駅の4番線を「間借り」する形で設置された仮駅に発着する Metro は、 おおむね1km程度の間隔で設置された電停の間を最高速度70km/h程度で快走する。 車両は70%低床タイプで、 編成長は比較的短い。 1m/s2 とかいう高加減速も気持ちがいい。

電停には30cm程度の高さのプラットホームが設けられていて、 電車との段差がないよう工夫されている。 だが、 もとが鉄道線だったこともあり、 切り通し区間に設けられた電停などでホームへのアプローチが階段以外にないところがいくつかある。 本来ならエレベータなどを設けるべきところ、 お金がなかったものと思われる。

併用軌道は Wolverhampton 終点側にあるだけだ。 現在は仮開業の状態で、 市街地への乗り入れはバーミンガム側も含め実現していない。 しかし、 両方の終点駅とも市街地まで容易に歩いて行ける位置にあり、 沿線住民には現状でも便利に使われているように見える。

電停の構内は、 専用軌道区間でも必ず舗装されていて、 ところかまわず歩き回ることができる。 電車接近時には音声で案内が流されるが、 それ以外は 「Tram に注意」 みたいなことが書いてあるだけである。 そうか、 本来郊外電車であるべきものに Tram と名前を付けて、 安全対策をさぼっているわけだ、 と思う。 その自己責任が、 確かに気持ちよかったりするのだけれど。

(第3回おわり)

プリーストフィールド電停、ミッドランド・メトロ
(Photo-3): 専用軌道上にある Priestfield 電停。構内は事実上自 由に歩き回れる。自動券売機等はない(車掌が乗務)。 残念ながら、設備の一部はすでに壊されるなどしていた。 (2001. 9. 9 撮影)

参考文献・インターネットサイト

  1. http://www.thetube.com/ (ロンドン地下鉄)
  2. http://www.spt.co.uk/ (SPT: Glasgow Subway)
  3. http://www.metropla.net/ (Metro Planet)
  4. Boynton, J., "Main Line to Metro", Mid England Books (2001)

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高木 亮 webmaster@takagi-ryo.ac
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