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デジカメ便り(6): 2階バス
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ページ執筆 2002. 10. 25
最終更新 2002. 10. 25

「恐怖の2階建てバス」

バーミンガム・デジカメ便り 第6回

名物だけど、名案じゃなさそう

21番系統の2階建てバス
(Photo-1): 21番系統に使われる新しい2階バス。 Easy Access Bus で、kneeling (ニーリング) 機能付き。 1階部には車椅子スペースなどもある。 (2002. 2. 23 撮影)

英国でバスと来れば、 やはり例の赤いロンドンの2階バスが有名どころだろう。 バーミンガムのバスも、 主な路線は2階バスである。

2階バスがいつころ、 どこで始まったのかなどは、 つまびらかにしない。 バーミンガムには一時ヨーロッパで最長の1067mmゲージ路面電車のネットワークがあったが、 ここでも2階建て車両が幅広く使われていた。 驚いたことに、 写真集によると19世紀に走っていた馬車の omnibus にも2階席がある。 従って、 1873年にバーミンガムで最初の軌道線 (馬が牽引) が開業したときも、 当然のように2階席がついていた。

この2階席、 当初は屋根なしであった。 その後いろいろないきさつを経て1890年ころから電化が進展したが、 架空線による電化なのに2階席はあいかわらず屋根なしだったようだ。 しかし、 1906年ころからはサービス改善ということで屋根つきになった。

第2次大戦で延命したものの、 バーミンガムの路面電車は1953年7月に廃止された。 だが、 バス時代になっても2階建ての伝統は維持され、 アルミ合金の使用による車体軽量化など改良がほどこされてきた。

けれど、 2階建てバスというのはあまりいいものだとは思えない。 1階席は、 階段やエンジンなどのおかげで非常に狭くきゅうくつな感じになってしまう。 2階席はどうしても酔いやすく、 嫌う人が多い。 景色がよく見えるので僕は好きだが、 大荷物を抱えていれば登ることは当然ためらわれる。 新しい2階建てバスは Easy Access Bus と称し、 kneeling (空気バネの空気を停車時に抜いてバスの床を下げ、 容易な乗り降りができるようにする機構) などの新機軸を盛り込んでいるが、 2階バスではその意義を疑ってしまう。 それに、 2階席は運転士の監視の目が届きにくいことから、 あまり治安がよくないようだ。 僕自身は襲われたりしたことはさすがにないが、 不愉快な思いをしたことなら一度ならずある。

2階建ての家みたいな高さのクルマで、 外観はものすごいの一言。 それだけに転倒には気をつかっており、 過去にも何度かバスを傾けて何度で倒れるか試験しているようだが (空車なら40度程度傾けても大丈夫らしい)、 いまひとつ信用できない。 それに、 街路樹などがきちんと剪定されているわけでもないようで、 フロントガラスにひびがはいった車に当たったこともある。

44番バスに使われている「平屋建て」ノンステップバス
(Photo-2); 2階建てバスばかりではなく、 この44番系統のように1階建てのバスもかなり走っている。 これも Easy Access Bus で、 2階建てでなく車体が若干長いぶん、 車内は広々している。 (2002. 2. 23 撮影)
636番バスに使われている小型バス
(Photo-3): 短距離をサービスする小型バスも走っている。 636番系統は Harborne Hopper と愛称される。 (2002. 2. 23 撮影)

釣り銭の出るバス、出ないバス

どういうわけか、 バーミンガムのバスは 「何とか Travel」 という会社が運営していることが多い。 もちろん旅行代理店ではない。 最大手のバス会社は、 West Midlands Travel という (バスには Travel West Midlands と書いてある)。

City Council の資料によれば、 これらバス会社は基本的に独立採算で、 深夜のバスなど一部路線の一部便に限り公的予算による補助がなされるのだそうだ。 そのせいか、 バーミンガムの都市交通の運賃徴収は基本的にいわゆる運賃箱式である。 バスに乗り込むとき運転士と対面し、 定期券的なものを持っていればみせるし、 都度払いなら行き先を告げてお金を払い、 切符を受け取る。 バスには1つの出入口しかないものが多い (出口専用のドアを持つものもあるが、 終点でのみ開かれる)。

このバス会社のバスは釣り銭を出さないことになっている。 だが、 運転士に相談すると、 何とかしてくれることがある。 例えば、 ある日僕が深夜にバスで帰宅の途中、 お札しか持ち合わせがないらしい男性が乗り込んできた。 運転士は大声で 「バスに乗るときは小銭を用意すべきだ」 とかなんとか彼にきつい口調で説明したのち、 こんどは乗客に向かって 「誰かお札をくずせる人はいないか」。 持ち合わせのある乗客が応じて、 ぶじ彼はバスに乗り込むことができた。

バーミンガム市内でも Travel West Midlands 以外のバス会社のバスだと釣り銭をくれたりするから、 小銭を用意しないのが悪いというほど単純な話ではないと思うのだが。 ロンドンのバスだと、 古いものはバスの後部に出入口がある 「ツーマン運行」 が多かったりもする。 ヨーロッパの主要都市のようないわゆる信用乗車方式がこの国ではあまり普及しないのも、 こんな2階建てバスの伝統のなせるわざなのかも知れない。

バスの運転台、料金徴収関連の装置
(Photo-4): Travel West Midlands のバス運転台まわり。 Exact Fare とあるのがコイン投入口で、 運転士は反対側から投入されたコインを確認できるようになっている。 確認後、 切符が右手の印刷機から発行される。 意外に多機能で、 いろいろな種類の切符を発行できる。 (2002. 2. 23 撮影)
コーポレーション・ストリートのバス停の混乱状況
(Photo-5): Corporation Street の混乱状況。 こんなふうだから、 車体長の長い (従って停留所の有効長も長く必要になる) 連接バスなどは投入しがたいわけだ。 (2002. 2. 23 撮影)
バーミンガム唯一の連接バス、67番系統
(Photo-6): 連接バスが唯一投入されている、67番系統。 bendibus と愛称されている。 (2002. 2. 23 撮影)
ロンドン名物の2階バス
(Photo-7): これは有名なロンドンのバス。 後部に乗降口があることに注意。 このふきんに車掌が立っていて、 切符の発売等を行っている。 (2002. 2. 10 撮影)

初心者に、何と難しいご指南

バーミンガム大学の Edgbaston キャンパスのすぐわきに University という駅がある。 Newcastle の Tyne and Wear Metro にも同名の駅があるが、 National Rail 的には University といえばバーミンガム大学ということになる。 そのことは来る前から知っていたから、 去年、 大学初出勤の日に大学へどうやって行くかホテルで尋ねたときも 「電車で行きなさい」といわれるものと内心期待していた。 ところが、Corporation Street までいってバスに乗れ、 と予想外のお返事。 「電車は?」 とわざわざ聞き返したが、 何人かで顔を見合わせてから「いや、バスの方がいいと思うよ」。

こんなふうで、 都心から5マイルくらいまでは鉄道より路線バス、 というのがふつうの感覚であるらしい。 鉄道はすぐ Engineering Work とかいって止まるから信用されていないだけかも知れないが。

しかし、 慣れた人にはそうでも、 初出勤の人には少々難しいご指南であった。 日本のようにテープでアナウンスなんて期待できないし、 あちこちにあるラウンドアバウトが方向感覚を狂わせる。 ただ、 すべての街路に名前がついているから、 地図を手に入れておけば街路名をたよりに現在どの辺を走っているか知ることはできる。

いちばん簡単なのは運転士に「ついたら教えて」と頼むことだ。 運転士も、 場合によっては乗客も含めて、 けっこう親切に教えてくれる。 この辺は英語が母国語の国の助かるところかも知れない。

だがそれは日本の「阿吽の呼吸」というのに似た甘えを生むような気もする。 例えば、バーミンガムのバスにはいちおう停車ボタンがついているが、 実際に運転士のそばまで歩いていって「止めてね」と態度で示さないと、 停車ボタンの方を無視されることが多い。 つまり「止まってから立つ」のでは遅いということだ。 逆に、運転台のそばに立っていれば、 ボタンを押してなくても止めてくれる。 では、バスが混んでいて奥まで入れない場合はどうなるか?  ……困る、のである。

(第6回おわり)

参考文献

  1. Collins, P., Birmingham Corporation Transport 1904-1939, Ian Allan Publishing (1999)
  2. Collins, P., Birmingham Corporation Transport 1939-1969, Ian Allan Publishing (1999)
  3. 高木: ライトレールの制度と経営, 電気学会誌, 121, pp.539-542 (2001)
  4. 日本におけるライトレールシステム発展の可能性, 電気学会技報 821 (2001)

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