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[種蒔き] 地震の本
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ページ執筆 2001. 4. 30
最終更新 2003. 2. 9

地震の本

旧シリーズ「自分に種蒔き」
参考文献等リスト(お勧め度は★の数3個が満点)
  1. 「Newton別冊 せまり来る巨大地震」, ニュートンプレス(2001)(★★) (ISBN 4-315-51606-6)
  2. 「大正大震災 満四十年忌日を迎えて」, (財)東京都慰霊協會 (1963)
  3. 「緊急大特集 ワーストケース 東京壊滅巨大地震」, Newton, 20, 10, ニュートンプレス (2000)
  4. 尾池: 「活動期に入った地震列島」, 岩波科学ライブラリー33, 岩波書店 (1995) (★★) (ISBN 4-00-006533-5)
  5. 池田他: 「活断層とは何か」, 東京大学出版会 (1996)(★★★) (ISBN 4-13-063309-0)

橋梁ざんまいの記事に示したとおり、日本は地震国であり、今後もそのことに対する警戒は緩められない。特に、上記参考文献のうち4.にあるように、これから日本列島は地震の「活動期」に入るため、地震活動や火山活動によって大きな被害を受ける可能性は非常に大きい。そういうわけで、高木も地震はコワイと思う(そのわりには本棚の固定などはしてなかったりするが)。

竹内均編集長の雑誌「ニュートン」は、昨年10月号で東京を地震が襲った場合何が起こるかを、もっとも悲観的なシナリオに基づいて推定している(参考文献3)。この記事をベースに「ムック」も出版された(同1)。いささか悲観的すぎるんじゃないか、という向きもあろうが、最悪の状況を仮定しておくことはこの種の問題においては常に必要なことである。

大学の学部前期課程の学生だったころ、災害予測のゼミを受講したことがある。東京都が発行した資料には、 30万人死亡といった数字が現実に並んでいた。当時は「阪神・淡路大震災」の前だったから、「関東地震」が唯一の前例であり、このときの火災の延焼速さなどの数字が推定に用いられていたものである。「関東地震」から70年近く経って、ほんとうに同じような災害になるのか疑問に思ったことも覚えている。もちろん、同じ様相の災害は二度とは来ないだろう。しかし、実際には6000人程度で「済んだ」阪神・淡路大震災を経て、こうした数字を改めてかみしめる必要があろう。それに、決してうまくいったといえない阪神・淡路大震災後の復旧と、まがりなりにも大幅な都市改造の成果を残した関東地震後の「帝都復興事業」とを徹底的に分析することからも、我々は多くを学ぶことができるし、その必要性は高いとも思う。

「ニュートン」の記事には若干「売らんかな」的なにおいも感じるが、最近地震に警戒せよとの声は日増しに強まっている。実際、近頃東京近郊の地震の「起こり方」が10年ほど前とは違うようになったと思えるし、いまだに島民の帰島が実現しない三宅島、火山性微動が増えているという富士山などを始め、火山の活動も明らかに活発化している。昨年の鳥取の地震、そして今年の芸予地震と、西日本での強い地震の頻発も今までにない傾向だ。

思い出すのは、 1995年の地震のあと、「日本の活断層」という本が有名になったことだ。専門家向けの資料集という位置づけであり、サイズはA3くらいもあり、重くかさばり、定価も3万円もする。ところが、あの地震で動いた断層群のことがしっかり書いてあったというので俄然注目を集め、多くの人がこれを購入するということになってしまった。高木も購入を検討したのは覚えている(さすがに高いのでやめたが)。

こうした専門書に記載があっただけでなく、地震の専門家が「西日本でも地震への備えを」と説いていたケースもあるにはあった(参考文献4)が、一般人は地震が来るなど想像もしていなかったようだ。そうであれば、「地震が起こることがわかっているなら、なぜ教えてくれなかったのか」という非難が研究者たちに向けられたのは、当然だったろう。「研究成果を世に問うことは、専門書を書いて出すことだとしか考えていなかった自分たちにとって、これは脳天をぶち割られるような出来事だった。これまでの研究成果は専門家や研究者の手には渡っていても、一般の人には手の届かないところに置かれていた。にもかかわらず、十分社会に貢献する仕事をしていると自分たちは考えていたのだ」と、参考文献5.の著者である若い研究者たちは、率直な反省の辞からこの本を書き始めている。

参考文献5.は、そのようないきさつから、活断層について「正確にわかりやすく解説する」目的で書かれた。もうだいぶ古い本だし、この本ひとつだけでその目的が十分達成されたとも到底いえそうにないが、同書の「まえがき」に記されたこの研究者たちの心意気だけでも、この本の購入動機としては十分という気がする。

なお、参考文献2.は、 1923年関東地震で最大の惨事、短時間のうちに4万人弱の生命を奪った火災旋風の現場である、東京・両国の横網町公園内の記念館で配っているものだ。


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