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デジカメ便り(8): 電気
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ページ執筆 2003. 2. 17
最終更新 2003. 2. 17

「電気の使い方」

バーミンガム・デジカメ便り 第8回

サッカーW杯と電力消費の関係

電気ポットと電気コンロ
(Photo-1): 筆者のフラットに備え付けられていた電気コンロ(オーブンつき)と、 筆者が購入した電気ポット。 電気コンロは「あたたまりにくくさめにくい」ため、 「火」 をとめてそのまま放っておくと焦げ付いてしまう。 電気ポットは2.4kW、1リットル程度の水を1分程度で沸かしてしまう感じだ。 (2002. 7. 23 撮影)
蓄熱電気ヒータ
(Photo-2): 筆者のフラットに備え付けられている蓄熱ヒータ (storage heater)。 夜間電力で蓄熱するとともに部屋を暖める。 ただし、夕刻に帰宅するころには蓄積した熱のほとんどは逃げてしまっているから、 寒い晩にはあまり役に立たない。 (2002. 7. 23 撮影)

視聴率の高いテレビ番組の「切れ目」にあわせ、 多くの人が似たような行動を起こすと、 電力消費が大幅に変動することがある。 似たような行動とは要するにお茶を入れることだが、 お茶に使うお湯は電気で沸かすのがこの国ではふつうなので、 電力消費が急増するのだ。 TV pick-up と呼ばれるこの現象、 有名なBBCのドラマ Eastenders も何度か記録を作っているが、 10年以上も破られていないのが1990年7月のサッカー・ワールドカップ、 準決勝イングランド対ドイツ戦だそうだ。 このときの変動幅は280万kWだった。 日本の最新の原子力発電所1基あたりの出力が140万kWだから、 これは大変な変動幅である。 英国の電力会社はどうやって乗り切ったのだろう。

日本で売っている電気ポットの高いやつは3万円くらいしたような記憶があるが、 こちらのは猛烈に安くて、 プラスチック製のなら新品でも10ポンド(2000円)くらいからある。 電圧が240Vと高いから、 そういうのでも2kW以上のパワーですぐお湯が沸く。 だが、 「まほうびん保温」までしてくれる日本のに比べると、 エネルギーの盛大なむだづかいという気もする。

僕のフラットにはガスがない。 お湯は主に夜間に電気でわかし、 タンクにためておく。 ただしタンクの保温性がそれほどよいわけでもないし、 容量も小さく、 ふろおけにお湯をはると空になってしまう。 ただ、 シャワーは専用の電気瞬間湯沸かしシャワーという恐ろしげなものがある (消費電力はなんと10kW近い) から、 タンクが空になってもとりあえず困らない。

では電力料金はというと、 これが非常に安い。 僕のフラットの契約は夜間 (グリニッジ標準時で午前0時〜7時) が昼間の3分の1近い電力料金で利用できる。 昼間だって日本に比べれば安い (1kWhあたり7ペンス弱=13円程度) うえ、 夜は1kWhあたり2.7ペンス、 5円強である。

検針は3ヶ月に1度が原則なのだが、 それも場合によっては行わず、 ユーザである僕自身がメータの数字を読みとって電力会社側に連絡するかたちをとることさえある。 毎月きっちり検針員が各戸をまわる日本と比べるとなんという違いだろう。 いちおう日本の電力会社に3年間籍を置いた人間としては残念だけれど、 英国の経済誌等が日本の電力料金の高さを頻繁にやり玉に挙げるのも、 やむを得ないかな、 と思う。

HSTの罪?

ウスター・アンド・バーミンガム運河沿いを走る Class 323 電車
(Photo-3): Worcester & Birmingham Canal(ウスター・アンド・バーミンガム運河) 沿いを走る、 Cross City Line の Class 323 電車。 電気方式は25kV 50Hz架空線式で、 インバータ制御電車である。 客室内は、いつも汚れている。 (2002. 6. 8 撮影)
架線下を走る気動車列車
(Photo-4): 架線下を走る気動車。 撮影位置は Photo-3 と同じ。 非電化区間のWorcester(ウスター)方面から、 バーミンガム New Street 駅へ直通する長距離列車である。 (2002. 6. 8 撮影)

そういうわけで、 家庭内では電気は使いほうだい、 という感じなのだが、 鉄道の世界に目を転じれば、 英国の電化率はわずか30%。 日本の63%も決して高くはないが、 それに比べても半分以下である。

30%のうちおおよそ3分の1ほどは、 ロンドン周辺にあるサードレール750V直流電化された路線群で占められている(Liverpool 周辺にもあるようだ)。 1.5kV架空線式をはじめ違う方式の直流電化区間も過去にはあったようだが、 廃止された。 現在は、ロンドン地下鉄の第3・第4軌条電化、 および Midland Metro などの LRT や路面電車を除けば、 英国の直流電化はすべてこの750Vサードレール方式ということになっている。

残りが25kV 50Hz電化だが、 電化されたのは West Coast Main Line および East Coast Main Line と、 それらの支線の一部のみ。 せっかくの電化区間を走行するディーゼル車両も、 頻繁に目にすることができる。

それに、 ロンドンから北上して Sheffield, Leeds などを結ぶ Midland Mainline、 あるいはロンドンから西方向に Bristol, Cardiff などを結ぶ Great Western など、 重要なルートが非電化のまま残されている。 こうした路線では、 20年以上前に登場した HST (High Speed Train) 列車がいまでも主力として使われている。

両先頭車に動輪周出力(power at rail)1320kWの Class 43 電気式ディーゼル機関車を配した HST 列車は、 最高速度125mph(201km/h)。 いまだにこれを上回る速度で営業運転する列車がないことひとつとっても、 HST の成功がいかにめざましいものであったかがわかる。

だが、 HSTの成功が、 現在の英国鉄道の苦境のひとつの原因ではないか、 という気もする。 後継となるはずだった APT (Advanced Passenger Train) 振子列車の開発失敗は不運といえなくもないけれど、 ディーゼル列車であるHSTがここまでの成功をおさめたことが、 電化投資の意欲をそいだ、 というのは考えすぎだろうか。

唯一の成功例、Chiltern Railways

ロンドン・マリルボーン駅
(Photo-5): Chiltern Railways のロンドン側ターミナル、Marylebone 駅。 (2001. 9. 21 撮影)
Chiltern Railways の Clubman 気動車
(Photo-6): Marylebone 駅に停車中の、 Class 168 気動車 "Clubman"。 最高速度は100mph(160km/h)。 この編成は 168/0 と呼ばれるもので、 1997年に発注されたもの。 民営化後の鉄道会社による初めての車両発注といわれる。 後に、 若干の設計変更をほどこした 168/1 と呼ばれる車両が追加発注され、 2000年以降順次営業入りしている。 (2001. 9. 21 撮影)
Clubman 気動車の車内
(Photo-7): "Clubman" の車内。 (2001. 9. 21 撮影)

ロンドンの Marylebone(マリルボーン)ターミナルは、 たぶんロンドンで唯一の非電化ターミナルだろうと思う。 接続する Tube の入口には、 ロンドンでもいまや珍しくなった木製エスカレータがあったりして、 なかなか面白い駅だ。 ここを起点に、 高速道路M40ぞいにバーミンガムまで列車を走らせているのが Chiltern Railways である。 比較的小規模の会社ではあるが、 この会社が民営化で唯一の成功例といわれている。

BR民営化後はじめて発注された新型車両が、 現在同社が使用している Class 168 気動車 "Clubman" である。 モノクラス(1等車がない)ながら快適な居住性を有し、 最高速度も100mph(160km/h)。 Euston からバーミンガム New Street 駅まで1時間40分程度で結ぶ Virgin Trains には及ばないものの、 速い列車は Marylebone からバーミンガム Moor Street 駅までを2時間で結んでいる。 快適性や定時性などとあわせ、 競合路線として成長しつつあるようだ。

しかし、 唯一の成長株がディーゼル列車、 というのも悲しい気がする。 バーミンガムでも、 1時間に4本のディーゼルカーが盛大に走っている路線がある (Stourbridge - Birmingham Snow Hill 間)。 日本ならきっと電化を考えるところだろうが、 英国ではそんな声はほとんど聞こえない。

(第8回おわり)

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高木 亮 webmaster@takagi-ryo.ac
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