RTざんまい
 
お写真 | 鉄道ざんまい | 橋梁ざんまい | 種蒔き
現在の場所 :
デジカメ便り(10): 博物館
English
 
ページ執筆 2003. 5. 21
最終更新 2003. 5. 21

「鉄道の博物館」

バーミンガム・デジカメ便り 第10回

ロンドン交通博物館の入口
(Photo-1:) Covent Garden Piazza にある London Transport Museum の入口。 この建物は、もと Flower Market だったもので、 19世紀後半に建設され、 パディントンなど当時の駅建築と類似性があるという。 1974年の市場移転後、1980年オープン。 (2002. 8. 26 撮影)

国立博物館は「入館無料」

ロンドンのウェストエンドにあるコヴェント・ガーデン (Covent Garden) の広場ピアッツァ (Piazza) は、 17世紀の著名な建築家イニゴー・ジョーンズ (Inigo Jones) の作品だ。 1635年の完成後しばらくはロンドン最高級の住宅地だったが、ほどなく凋落。 とくに1661年に花と青果の市場が開かれると、 周囲はいささか危険な歓楽街に成長する。 有名な映画「マイ・フェア・レディ」(1964年作品)の舞台でもあった。 その後、規模拡大した市場は1974年に移転。 もと青果市場があった建物はおしゃれなショッピング街に再開発されて人気がある。

そのピアッツァの一角に、 なぜかロンドン交通博物館 (London Transport Museum) なるものがあるのだが、 入館料が£5.95(約1100円)と高く、 興味のない人にはあまり評判がよくない。 なにしろ、ロンドンにいくつもある国立博物館は入館無料なのだ (たいがい入口に「無料を維持するため寄付をください」という箱があるから、 実態としてはお金を払わされるのだが)。 例えば、同じロンドンのサウス・ケンジントンにある国立の科学博物館 (The Science Museum) には、 あのスティーヴンソンのロケット号 ("Rocket") のほか、 現在の粘着方式による鉄道の基本を作った「パッフィング・ビリー号」 ("Puffing Billy", 1813年) が展示されている。

ロンドン交通博物館は TfL (Transport for London) が運営している。 TfL といえば、ロンドン地下鉄の1ゾーン運賃は£1.60(300円)もする。 交通博物館の入館料も、単にそれに引きずられただけなのかも知れない。 まあ、確かに高いけれど、実際に入ってみれば展示の充実ぶりはみごとである。 手元のガイドブックには、 19世紀から20世紀にかけてのコマーシャル・アート (ポスターなど)の展示も充実している、とある。

ロンドン交通博物館の展示状況
(Photo-2:) London Transport Museum の展示状況。 広いとはいえない展示室に、Tube の車両やバス、 乗合馬車、路面電車などが数多く展示されている。 (2002. 8. 26 撮影)

がらくただらけ? 「バーミンガム鉄道博物館」

ヨークの国立鉄道博物館、グレート・ホールへの搬入口
(Photo-3:) York の National Railway Museum, Great Hall の搬入口。転車台を含む展示 空間はともかく巨大。しかも、これ以外に2つほど大きな建物があり、そこにも 収まりきらない車両が一部屋外にも置かれている。左の機関車は展示物ではない が、これと比較することで建物の大きさがおわかりいただけると思う。 (2002. 9. 14 撮影)
ヨーク・ミンスターと鉄道博物館を結ぶ「ロード・トレイン」
(Photo-4:) National Railway Museum から York Minster までを結ぶ Road Train。子供 向けのアトラクションのひとつだと思うが、York Minster も NRM も著名な観光 スポットであるためか意外に利用者が多い。お値段は£1.50。 (2002. 9. 14 撮影)

英国の鉄道博物館のなかでも圧巻は、やはりヨーク (York)の国立鉄道博物館(National Railway Museum, NRM)だろう。その規模壮大さにはただ感服するほかな い。転車台を中心に、機関車等だけでも20両は展示され ている、という巨大な展示室 Great Hall に、昨年8月から新 幹線0系車両の展示がお目見えした。それまでは、蒸気 機関車の最高速度記録を持つ流線型の「マラード号」("Mallard", 1930年) がスターだったが、Bullet Train に その座を奪われてしまったかたちだ。

実はバーミンガムにも「鉄道博物館」という看板を掲 げている場所がある。Snow Hill 駅から南東方向に数駅 ほどいったところに、ロンドン方面に向かう線路とスト ラトフォード・アポン・エイヴォン (Stratford-upon-Avon) 方面に向かう線路が分岐する Tyseley(タイズリー)駅がある。ここには今でも車両 基地があって稼働しているが、「鉄道博物館」はその敷 地の一角を占めている。ところが、中をのぞくと一見 がらくただらけという印象、古い車両が何両か置かれているだけ。 一部の車両に「復元のためボランティア募集」という看 板がたてかけてあったりする。これで博物館とは名ばかりと関係者も思ったか、 現在は Tyseley Locomotive Works Visitor Centre が正式名称らしい。

確かに、バーミンガム鉄道博物館にはマラードのよう なスターはいなかった。しかし、こんな地道な活動の広 がりがあってこそ、スターの輝きも増すというものかも 知れない。実際、ヨークの博物館にも The Warehouse と称する空間があり、収集されたものが「整理されない 状態で」展示されている。車両の実物あるいは模型、各 種機器、プレート類、椅子や机。最高速度140mph (225km/h) の Class 91 電気機関車の走行試験の際に用 いられたという「140」という速度制限標識も。しかも、 これ以外に博物館外の収蔵庫にたくさんの所蔵品が眠っ ているという。

バーミンガム鉄道博物館の展示状況
(Photo-5:) Birmingham Railway Museum の「展示」状況。状態がいいとはお世辞にもいえ ない車両ばかりが展示されていた。 (2002. 9. 1 撮影)

保存鉄道の謎と楽しさ

古い車両を「動態保存」する保存鉄道がたくさんある、 というのも英国の特徴のひとつであろう。 バーミンガム近郊、Kidderminster からセヴァーン川の渓谷沿いに走る鉄道 Severn Valley Railway はその代表的な存在だが、 これ以外にもたくさんの鉄道で、 蒸気機関車や古いディーゼル動車などが日々運行されている。 それだけでなく、本線上を走る列車も数多くあるようだ。 日本ではこの種の保存鉄道や保存列車が商業的に成功した事例はほとんどないといえると思うが、 それが英国でこれほどの規模で成り立つ仕組みの全容は、 未だに僕にはよく理解できていない。

例えば、バーミンガムの Snow Hill 駅からストラトフォード・アポン・エイヴォンまで、 夏のあいだ、日曜日に往復する蒸気機関車牽引列車がある。 ストラトフォードに生まれたシェークスピアにちなみ Shakespeare Express と呼ばれるこの列車は、 英国の本線鉄道上を走る蒸気列車としては「最速」を誇る、とのこと。 この列車を走らせているのは Vintage Trains というソサエティである。 もともと「バーミンガム鉄道博物館友の会」といっていたそうだ。

先日、この夏最後の運転日にこの Shakespeare Express に乗車したら、 何年間かこのルートで機関助手のボランティアをしていたという男性に車内で会った。 この男性、 列車の車窓からプラットホームに立っている職員然とした恰好の男性を見送り 「あいつがネクタイをしているのなんか初めて見たよ」などといって大笑い。 蒸気機関車の音が聞こえてくると「おお、Great Western のサウンドだ」と、楽しそうだ。 こんな人たちが、自分の手で走らせる鉄道を楽しみ、 そこで知り合った人々とのふれあいを楽しむ、そういうものらしい。

ボランティアに汗を流すような段階にはなかなか至らないだろうが、 こういう鉄道の楽しみ方も悪くないと思う。 この10月には Snow Hill 駅が開業150周年を迎え、 それを記念してロンドン・パディントン駅まで蒸気列車が走ることになっていて、 もう切符も申し込んである。 Severn Valley Railway だってまだ乗っていないし、 当面「お楽しみ」にこと欠くことはなさそうだ。

(第10回おわり)
ヨーク駅に停車中の Class 91 電気機関車
(Photo-6:) York 駅に停車中の Class 91 電気機関車。 East Coast Main Line 電化にあわせ、 Mark Four 客車とともに1980年代おわりころ投入された。 設計上の最高速度は140mph (225km/h) だが、 運転上は現在に至るも 125mph に抑えられたままだ。 線路も車両も保守状況が悪く、乗り心地はお世辞にもいいとはいえない。 (2002. 9. 14 撮影)
ストラトフォード・アポン・エイヴォン駅で出発を待つ「シェークスピア・エクスプレス」
(Photo-7:) Stratford-upon-Avon 駅に停車中の Shakespeare Express。 機関車は 4965 "Rood Ashton Hall"。 Great Western Railway の Hall class と呼ばれる機関車のひとつである。 (2002. 9. 8 撮影)

参考文献

  1. 「街物語イギリス」, 日本交通公社出版事業局 (1995)
  2. "Great Britain", Dorling Kindersley Ltd. (2001)
  3. "London's Transport Museum Museum Guide" (2002年購入)
  4. ロンドン交通博物館ホームページ (http://www.ltmuseum.co.uk/)
  5. "Science Museum Guide Book", The Science Museum (2000)
  6. "Your guide to the NRM" (Brochure, 2001)
  7. "The Story of the Train", National Railway Museum (1999)
  8. Vintage Trains ホームページ (http://www.vintagetrains.co.uk/)

画像に著作権表示の文字列がでる場合、 こちらをクリック。
高木 亮 webmaster@takagi-ryo.ac
(c) R. Takagi 2003. All rights reserved.