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ページ執筆 2003. 10. 12
最終更新 2003. 10. 12 「バーミンガムの『鉄道革命』」バーミンガム・デジカメ便り 第11回
ベビー誕生、でも微調整が必要Virgin Trains から、アルバム仕立てのりっぱなダイレクトメールが送られてきた。 「ベビー誕生」、誕生日は2002年9月30日。 Isn't she lovely? とあるからたぶん女の子(列車はいつでも she なのだが)。 で、重さは……670,198ポンド6オンス(約300t)! 営業運転入りした新型気動車 Voyager の宣伝である。 Voyager が投入されたのは Cross Country ルート。 バーミンガム New Street 駅を中心に、 英国の南西部と北東部を(ロンドンを経由せずに)結ぶ。 1981年にHST投入とともにサービス開始、 民営化後は Virgin Trains が運行している。 主な幹線から少し外れ、かつ複雑なルートをたどるため、 定時性統計ではいつも全運行会社中の最下位。 終着駅での遅れ10分以内で運行できた列車の割合が70%前後 (2002年4〜6月期は、68.5%) という。 Voyager の最高速度は125mph (201km/h)。 気動車だから当然先頭車にも客室がある。 だが、100mph (160km/h) を越える速度は、 英国内では従来「先頭車に乗客を載せる列車」では許可されていなかった。 珍しい規制だと思うが、 ブレーキ距離短縮や車体の衝突安全性向上などいくつかの条件を満たせば規制が緩和されることになった。 2001年に登場した First Great Western の Class 180 気動車が先鞭をつけたが、 わずかに遅れて登場した Voyager のほうが投入車両数では明らかに上回る。 300tの自重は恐らく1編成5両あたりの数値だろう。 1両あたりエンジン出力が750馬力、対する自重60tはいかにも重い。 JR発足後に登場した日本の特急気動車は、 最高速度は130km/h程度であっても出力重量比ははるかに高い (例えば、1988年登場のJR東海キハ85系「ワイドビューひだ」は700馬力に対し40t強)。 こんな Voyager でも、条件がよければ実際に200km/h運転できるのだから羨ましい。 もっとも、内陸に位置するバーミンガム周辺には、 Lickey incline (Bromsgrove 〜 Barnt Green 間、37.7分の1=26.5パーミルの急勾配が約3km続く) など、 気動車の速度が目立って落ちる難所がいくつかある。 ともあれ、Voyager 投入で Cross Country サービスの抜本的な高頻度化が図られた。 地元紙に「バーミンガムが鉄道革命の中心に」などという記事も出たくらいだ。 だが、投入から1ヶ月後、駅に掲示が貼り出された。 「10月の定時性指標が悪化した」という。 新しいダイヤではうまく走らせられないため、 関係会社と協力しつつダイヤの「微調整」を行っている、 のだそうだ。 なぜ高速新線を建設しないのか?バーミンガムの『鉄道革命』第2弾にして本命は、 やはり West Coast Main Line (WCML) 高速化だろう。 だが、こちらの状況も順調とはいいがたい。 ロンドン・バーミンガム間を WCML とほぼ併走する Chiltern Railways は、 この9月から「攻め」のダイヤ改正を実施した。 従来1時間1本だったロンドン・バーミンガム直通列車を、 週末に限り1時間2本に増強したのである。 WCML では当分の間改良工事により週末に運休や遅れが頻発するのを見越して、 これを機に乗客を呼び寄せる戦略。 あちらは遅ればかりだが、こっちは大丈夫、とテレビ広告まで打つ徹底ぶりだ。 もっとも、そういう Chiltern も一部区間の複線化工事をしていて、 夏ごろまではやや遅れが増加傾向にあったのだが。 当初21億英ポンド(約4200億円)と見積もられていた WCML 改良の費用は、 時間がたつにつれてどんどん積み上がっていき、 最近の報道ではなんと最大130億ポンド(約2兆6千億円)にまでふくれあがった。 それを圧縮して約100億ポンド(約2兆円)程度に抑制するため、 2003年には3ヶ月程度の間、 バーミンガムの北の一部区間を運休するそうだ。 さらに、 140mph (225km/h) までの速度向上という当初の目標も、放棄されるという。 投資額が抑制されたとはいえ2兆円、 それは新幹線が200〜300km程度は建設できる金額ではないだろうか。 さすがに、 ここにきて一般メディアでも「高速新線」を英国内でも建設したらどうか、 という記事をみるようになった。 だが、 新幹線のやり方を見慣れた日本人なら 「バーミンガム経由」 のまっすぐな新線を考えるところ、 BBCの記事が取り上げたのは廃止になった Great Central Railway の路盤の再利用である。 これではバーミンガムは恩恵にあずかれないし、 マンチェスターなど(これも大都市だ)にとっても遠回りなルートとなる。 もちろん、再利用を頭から否定するつもりはない (特に、 ロンドンの既存市街地に乗り入れるには有効な手段だろう)。 だが、 既存市街地をひとたび抜けたなら、 あとは過去のしがらみにとらわれないほうが結局安くすむと思うのだが、 そういう思考にはならないようである。 もしかすると、 この国はまだあの 「鉄道狂の時代」 の亡霊にとりつかれているのかも知れない。 ネットワーク・レール一連の改良工事の元締めだったのが、 線路保有会社の Railtrack である。 昨(2001)年10月7日に同社が破綻処理に入ってから1年近くが経過した。 この間ほんとうにいろいろなことがあった…… 前運輸大臣 Stephen Byers 氏の辞職というのが、 最大の政治的イベントだっただろうか。 だがともあれ、 今年10月3日に Network Rail なる非営利組織が線路保有を引き継ぐことになった。 当初、補償なしといわれていた Railtrack の元株主は、 結局1株あたり2ポンド60ペンス程度の補償を受けることで決着がついた。 この補償を可能にするため、 海峡トンネル連絡新線(Channel Tunnel Rail Link, CTRL)を Railtrack が政府系の組織に売り渡すなど、 かなり複雑な処理が行われた。 結局のところ、 このような手を使って相当な額の税金がつぎ込まれたようである。 今回の再編は「名前以外は再国有化と同じ」というのが正しい理解なのだろう。 従来の Railtrack は改良工事も通常の線路保守も両方行う会社だったが、 Network Rail は保守だけで、 改良工事等のためには個別の枠組みが策定されるそうだ。 それに、非営利組織のため配当が不要で、 そのぶん線路の維持管理にまわせる費用が増すとも見られている。 だが、問題がそれで解決すると思っている楽観的な英国国民はほとんどいないはずだ。 Railtrack 時代の問題点のひとつとして、 細分化された組織相互間の協力が不十分だったと指摘されたが、 Voyager の例をみる限りその問題が解消されたとはとても見えない。 また、今年5月に起きた Potters Bar 事故は、 分岐装置の整備不良による破損、という、 聞いたこともないような原因による事故だった。 事故に至らないまでも、 レールの締結装置が外れているとか、 レールの継目をとめるボルトが落ちているとか、 そんなのはいくらも見つけることができる。 いくら金をつぎ込んでも、 関係する人々のモラールが低いままでは、 この種の事故を防ぎきることは困難だ。
(第11回おわり)
参考文献
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