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デジカメ便り(5): 次の選挙
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ページ執筆 2002. 10. 5
最終更新 2002. 10. 5

「次の選挙まで」

バーミンガム・デジカメ便り 第5回

田中前大臣と Jo Moore 女史

日本では1月末に、 当時の田中外務大臣が更迭されて以来大騒ぎらしいが、 こちらでも2月15日に Jo Moore 女史が Stephen Byers 運輸大臣の special adviser の職を辞したことが話題になった。

Moore 女史は、 昨年9月11日のテロ勃発の約1時間後に 「まずいことを埋もれさせる (bury bad news) には絶好の日だ」 という電子メールを送信したことが暴露されて、 全国的に一躍有名(?)になった人だ。 実際に何か 「まずいこと」 がその日に発表されたかどうかなど、 詳細は明らかにはなっていない。 たぶん、 軽い気持ちで送信したジョークのひとつだったのではないかと思う。

真相はともあれ、 このことで猛烈な非難を浴びた Moore 女史は、 その後わざわざ BBC ニュースに登場し、 謝罪の言葉まで述べた。 だが、 ことはそれではおさまらなかった。 今年 (2002年) 2月9日に現女王の妹である Princess Margarette(マーガレット王女)が71歳で死去し、 その葬儀が15日に営まれることが決まった。 ところが、 この15日には鉄道に関する統計数値の発表が予定されており、 Jo Moore はまたも葬儀にこのよくない情報を埋もれさせようとしている、 との怪文書が出現したのだ。

この怪文書の内容はかなりの部分が作り話であったようだが、 一連の問題を何とかしろ、 と Tony Blair 首相から指示を受け、 Byers 氏もこれ以上 Moore 女史を擁護できなくなった。 怪文書の出所は当然不明だが、 誰にしろ Moore 女史、 そしてひいては Byers 氏の立場を危うくしようとした内部者のしわざとみられている。

日本の目を覆わんばかりのひどい状況と比べてはさすがに失礼かも知れないが、 両者がどことなく似ていると思うのは、 僕だけだろうか?


DTLRの建物
(Photo-1): ロンドン、 Victoria 駅そばにある DTLR (Department of Transport, Local Government and the Regions) の建物。 日本でいえば国土交通省にあたる。 (2002. 2. 9 撮影)
レールトラック・ハウス
(Photo-2): Railtrack 本社が入居している、 Railtrack House。 ロンドン Euston 駅のすぐわきにある。 (2002. 2. 9 撮影)

「国内政治をまじめにやらない」

Moore 女史が送信した昨年9月11日の bury bad news メールが暴露されたのは、 10月7日の Railtrack 破綻のあとだ。 つまり、 一連の事態の根っこに Railtrack 問題があるのは明らかだ。 しかし、 破綻から数ヶ月、 こんなたぐいの小競り合い以外には注目すべき展開はなかったような気がする。

国会では、いろいろなネタをもとに保守党が Byers 氏を追い落とそうとしたが、 追求は明らかに勢いを欠いて面白みに欠けた。 Moore 女史はやめたが、 彼はいまだに Secretary of State for Transport の職にある。

Railtrack は未だに管財人の管理下にあり、 2002年末くらいまではこのままではないかともいわれている。 Railtrack を引き継ぐ組織の形態についても、 決定が下されたとの情報は聞いていない。 真偽のほどはわからないが 「破綻後もこれまでどおり」 のはずだった列車運行乱れが実は拡大傾向、 との報道もあった。

2002年の年明けころからは、 混乱はついにストライキに発展してしまった。 民営化後に運転士の賃金が極端につり上がり、 他の従業員との差がつきすぎたことが発端らしい。 この国では 「乗務員がいないので列車運休」 というのが実に多いが、 運転士育成には9ヶ月かかるからと てっとりばやくカネで他社からの引き抜きを図ったらしいのだ。 Byers 氏は、 ストによる混乱にも関わらず年末年始の休暇を海外で過ごしたと糾弾された。

いっぽう、 Tony Blair 首相は昨年9月のテロ以来積極的な外交を展開し、 「英国はもはや超大国ではないが、 世界の中核的パートナーとして他国と協調し、 その力をよい勢力にすることができる」 とその実績を誇ってみせた。 だが、 国内は「ヨーロッパ中最悪」と政府自ら酷評せざるを得ない交通システムだけでなく、 医療や教育などの分野でも問題が噴出している。 これら公共サービスの強化のためには増税もやむなし、 とささやかれている。 外交にかこつけて国内の問題から逃げている、 との批評が飛び出すのも、 当然だ。


自動券売機「ファストティケット」
(Photo-3): Birmingham New Street 駅構内に置かれている fastticket 自動販売機。 当日乗車分のチケットをその場で購入できるほか、 インターネット等で予約した切符を クレジットカードと予約番号によって受け取れることになっている。 だが、 正常に動作したという話はあまり聞かない……。 (2002. 2. 9 撮影)

大丈夫?   次の選挙

不思議なことに、 民営化以来鉄道の利用者は30%ほども増えている。 この間、 この国の経済が順調だったことも理由だし、 新車両の導入などが若干は進み、 多少のサービス改善も実現したことは事実だ。 だが、 オフピーク時間帯の利用や切符の事前予約購入などに対し、 大幅な割引が設定されたことも、大きいようである。

民営化以来、 ピーク時間帯の運賃は急上昇した。 ロンドン・バーミンガム間の例でいうなら、 Virgin Trains の場合、 普通車 (standard class) でも£47.50もかかる (往復£87.50)。 ほぼ東京・静岡間と同じ距離だから、 これでは新幹線もお安く見えてしまう。

(注)1英ポンドは、 2002年10月現在約200円。

ところが、 時間帯を外して事前 (おおむね7日以上前) 予約すると、 往復£5.00とかいう特別割引があったりする (今年2月末までの特別インターネット割引)。 隣に座っている人は自分の10倍以上の運賃を払っている可能性があるわけだ。 もちろん、 最安値と最高値の間にいろんな種類の切符があり、 いろんな値段がついている。 そのうえ列車運行会社を選べばまた別な運賃体系だったりして、 わけがわからない。 この国ではインターネットの普及率が欧州内でも高い方で、 列車の時刻や運賃を検索できるインターネット・サイトが好評らしいが、 逆に言えばそれなしでは利用できないに近い状態である。

しかし、 こんな手法で短期的には成功をおさめても、 輸送が混乱した状態が放置されればその持続性には疑問符がつく。 政府は鉄道の利用を2010年には現在の50%増にする長期計画をもっているが、 長年の投資不足のツケはあまりに重い。 雑誌 Railway Gazette International も、 2年に1度の世界鉄道スピードサーベイの最新版 (2001年) で、 6位に甘んじた英国の状況を嘆いてみせている。 しかもこれは Hatfield 事故の影響を反映していないのだそうだ。

Virgin Trains から政府の Strategic Rail Authority (SRA) のトップに転じた Richard Bowker 氏は、 1月14日に新たな鉄道改良計画を発表したが、 新機軸はあまりないというのがいくつかの鉄道雑誌の一致した見方であるようだ。 利用者の多いロンドン近郊に投資が集中し、 置き去りにされたバーミンガムや West Midlands からは怒りの声も挙がっている。

SRAの今回のプランでは、 短期的な改善の占めるウェイトが大きくなっているが、 これはどうも選挙対策のようである。 Byers 氏は、 次の選挙までに目に見える改善を果たすと約束した。 これはかなり危険な賭けと評されている。 NHS(医療)にしても教育にしても、 次の選挙まで、 というのを最近 Tony Blair 率いる労働党政権はよく口にする。 だが、 公共サービスの問題は数10年にもわたる投資不足の蓄積だ。 そんな約束してしまって、大丈夫なんだろうか?

(第5回終わり)

Class 423
(Photo-4): ロンドン南、 Herne Hill 駅に停車中の、 Class 423 電車。 日本でいうボックスシートのひとつひとつに専用の出入口があるようなデザインは 伝統的に用いられてきたもので、 slam-door train などと呼ばれている。 SRA の新しいプランでは2004年までに全廃されることになっている。 (2002. 2. 9 撮影)
ダウニング街
(Photo-5): 首相官邸がある Downing Street。 ロンドンの観光名所のひとつだが、 写真の通りストリートに立ち入ることはできないようだ。 (2002. 2. 10 撮影)

参考文献

  1. http://www.transtat.dtlr.gov.uk/index.htm (DTLR ホームページ、交通関係統計)
  2. "Speeds improve, but no changes at the top -- World speed survey 2001", Railway Gazette International, pp. 671-674 (2001)
  3. "Strategic Plan aims to restart investment", Railway Gazette International, pp. 75-76 (2002)

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