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デジカメ便り(7): B'ham 表玄関
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ページ執筆 2002. 11. 24
最終更新 2003. 2. 17

「バーミンガムの表玄関」

バーミンガム・デジカメ便り 第7回

複雑な路線網

バーミンガムのまわりの鉄道線路略図
図-1 バーミンガムとその周辺の鉄道線路。 この範囲内はすべて複線。 ジャンクションはほとんどの場合立体交差になっていない。

1845年からの3年ほどの間を「鉄道狂」(The Railway Mania) の時代というそうだ。 この時代にものすごい規模で鉄道の建設が進んだ状況は、 1990年代のITバブルと確かに似ている。 新技術で (そう、当時鉄道はいまのITのような新技術だった!) 世界が変革されるとの期待のみを根拠に、 怪しい起業家たちのプロジェクトに資金が投じられた。 その結果はもちろん悪いことばかりではなかったろうが、 古い鉄道地図を見ると「なぜこんなに必要なのか」と首をかしげたくなる。

バーミンガム周辺の鉄道網(図-1)も、その形成過程も含め、きわめて複雑である。

London & Birmingham Railway (L&B) が1838年にロンドン・バーミンガム間鉄道を全通させたとき、 バーミンガム側ターミナルは New Street ではなく Curzon Street にあった。 バーミンガムから先、Manchester や Liverpool 方面は、 Grand Junction Railway (GJR) が、 この Curzon Street から折り返す方向(図-1 B)で結んでいた。 後に、別な鉄道会社の手で Stour Valley Line(同 C)が開業し、 それにあわせて New Street にターミナルが移転 (1854年6月1日) している。 これら各社は合併などにより後に London & North Western Railway (LNWR) となった。

これとは別に、バーミンガムを経由して Gloucester, Worcester など南西方向の都市と、 Derby など北東方向の都市を結ぶ Midland Railway というのもあり、 まず図-1 Eのルート、次いで同Fのルートを開業した。 Midland は Curzon Street, および New Street 駅をバーミンガム側ターミナルとして共用していた。

さらに別に、 ロンドンの Paddington から Oxford などを経由して図-1 Dのルートでバーミンガムに食指を伸ばしてきたのが Great Western Railway (GWR) である (1852年、Oxford - Snow Hill 間開業)。 だが、GWR も LNWR の牙城を崩すまでには至らなかった。 New Street 駅はバーミンガムの表玄関としての地位を維持して、 現在に至っている。

旧バーミンガム・カーゾン・ストリート駅の正面入口だった建物
(Photo-1): 旧 Curzon Street 駅の正面入口だった建物。 旅客駅としては10数年程度しか用いられなかった同駅だが、 その後長く貨物駅として機能していた。 現在付近は ParcelForce(郵便小包を扱う会社)のデポになっているようだ。 (2002. 6. 2 撮影)
旧カーゾン・ストリート駅建物に取り付けられていた記念パネル
(Photo-2): 旧 Curzon Street 駅建物に掲示されていた、記念パネル。 (2002. 6. 2 撮影)

プラットホーム2分割使用と安全

一説によると New Street 駅はヨーロッパでもっとも busy な駅とのこと。 12番線まであるプラットホームでは足りず、 ホームを2分割して、 短編成列車は2編成同時に同一番線上に停車することを許している。

こういうやり方に安全上の問題があることは、 英国でも認識されているらしい。 Snow Hill 駅でも同じ扱いをやっていたが、 1998年にこれを禁止する通達が出された。 その後、 1999年には再度許可されたというが、 実際に目にしたことはない。 その一方、 隣の Moor Street 駅では、 20年近く放棄されていた頭端ターミナルの再整備が進められている.

とはいえ、 New Street 駅のやり方でも大事故が頻発しているわけではない。 Snow Hill などでも必要なら多少の安全対策の追加を前提に許可すればいいと思う。 それより、 線路のストックをいたずらに増やして、 保守に手が回らなくなるほうが、 ずっと危険なのではないだろうか。

折しも今年5月10日、 East Coast Main Line の Potters Bar 駅 (あの Hatfield のすぐそば) で高速走行中の電車の最後尾車両が脱線転覆、 7人が死亡した。 事故現場の分岐装置の左右トングレールを結ぶ3本の stretcher bar のうち2本を固定するナットが完全にゆるみ、 残り1本がストレスに耐えきれず列車の通過中に破断したのが事故原因とされ、 保守を担当した企業 Jarvis は激しい非難を浴びた。 こんなふうで、 英国の状況はいかにもちぐはぐに見える。

バーミンガム・ニュー・ストリート駅 自動車入口
(Photo-3): Birmingham New Street 駅。 こちらは南側入口で、 主に自動車・タクシー等の利用者向けである。 (2002. 6. 2 撮影)
ニュー・ストリートとコーポレーション・ストリートの交差点から眺めたニュー・ストリート駅
(Photo-4): Corporation Street と New Street の交差点から。 写真中央、 人がたくさん歩いているスロープを上がっていくと New Street 駅なのだが、 駅併設のショッピングセンター Pallasades の看板だけで駅の名前の記載すらない。 (2002. 6. 2 撮影)
ニュー・ストリート駅構内風景(列車在線中の番線に別な列車が)
(Photo-5): New Street 駅構内の風景。 左手に停車している気動車列車の背後から、 電車列車がそろそろと近づいてきて停車し、 客扱いを始めてしまった。 日本から来た人間としては、 電車が衝突するのかと一瞬身構えてしまう。 (2001. 9. 30 撮影)

時節柄、サッカーの話題など

実は、 今回分の執筆のため New Street 駅に写真を撮りに行ったら、 職員に撮影を中止させられた。 その日、 6月2日が Golden Jubilee (女王即位50周年記念式典) の週末で、 特別な警戒をしていたのかもしれない。

だが、 ちょうど日本・韓国でサッカーW杯が行われている時期だ。 せっかくの式典もそちらに押されて盛り上がらないのでは、 と事前に懸念されたのも、 当然といえる。 多くの方はご存じだろうが、 こちらのサッカー熱は半端ではない。 なんだか知らずに Manchester United ロゴの入ったバックパックを買った僕は、 おかげで大いに困っている。 W杯開催前、 イングランドが出場を決めた試合の数時間後、 ひとりでパブに入ったら、 歓喜の渦に巻き込まれて閉口したこともあった。

ところで、 サッカーかつバーミンガムとくれば、 最近の話題はロンドン北郊の Wembley にある National Football Stadium(国立サッカー競技場) をバーミンガムに移そう、 という運動のことだろう。 地元の主張は、 こちらのほうが建設費も安く、 交通機関もはるかに manageable だというもの。 New Street 駅に限ってはとても manageable とは思えないが、 道路網や空港などなら確かにそうかもしれない。

伝統ある地元紙 Birmingham Post も、 Bring It To Birmingham キャンペーンをはっていた。 そのなかで写真入りで紹介されたのが、 空港駅 (駅名はなんと Birmingham International) と空港ターミナルを結ぶピープルムーバである。 世界的に有名だった磁気浮上式システムの軌道桁を再利用して ロープ駆動の別なシステムを導入する工事が現在進められている。

しかし、 Wembley はサッカーの「聖地」らしいから、 そう簡単には招致は成功しそうにない。 公式な現状は Wembley が第一候補で、 こちらが建設に必要な資金を集められない場合バーミンガムに話が移る、 ということだった。 だが、 あろうことか昨年からすでに関係者の間に密約があり、 Wembley から競技場を動かすことは事実上できなくなっていた、 というニュースが最近暴露された。 West Midlands の関係者が怒ったのは当然である。

すばらしい大会運営で評価の高い日韓W杯にあって、 英国の某社によるチケット販売問題は唯一の汚点となったが、 英国でこんなニュースをいつも聞いているものだから、 さもありなん、 と思ってしまう。

一方、 Golden Jubilee のほうは事前の予想に反して大成功であった (宮殿でぼや騒ぎなどもあったが)。 英国人は、こういうお祭りなら得意、なのだそうだ。

(第7回おわり)
バーミンガム空港と鉄道駅とを結ぶ新ピープルムーバ DCC
(Photo-6): Birmingham International 鉄道駅と、 バーミンガム空港旅客ターミナル間を結ぶ Air Rail Link(工事中)。 Doppelmayr Cable Car (DCC) と呼ばれるロープ駆動のものになるらしい。 駐車場裏手に車両が置いてあった。 軌道桁は有名だった磁気浮上式システムの時代のものをほぼそのまま流用しているようだ。 (2002. 6. 18 撮影)

参考文献

  1. Chancellor, E., "Devil Take the Hindmost -- A history of Financial Speculation", Macmillan (1999) (邦訳: チャンセラー, 山岡(訳), 「バブル の歴史 --チューリップ恐慌からインターネット投機へ」, 日経BP社 (2000))
  2. Reed, M. C., "The London & North Western Railway", Atlantic Transport Publishers (1996)
  3. Boynton, J., "Main Line to Metro", Mid England Books (2001)
  4. "City's new air-rail link will boost stadium bid", Birmingham Post, August 29 2001, p. 4

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高木 亮 webmaster@takagi-ryo.ac
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