RTざんまい
 
お写真 | 鉄道ざんまい | 橋梁ざんまい | 種蒔き
現在の場所 :
橋梁ざんまい >> [訪問記] Woolwich Free Ferry
English
 
ページ執筆 2003. 9. 2
最終更新 2011. 8. 8

ウリッジ・フリー・フェリー

橋梁訪問記
ウリッジ・フリー・フェリー (7)

英国は橋梁技術の先進国である。 それは、 1779年に架設された世界初の鋳鉄アーチ橋・ アイアンブリッジ (Ironbridge) や、 1899年開通のフォース鉄道橋 (Forth Rail Bridge) など、 古い事例だけによるのではない。 たとえば、 ハンバー川 (River Humber) の河口付近を南北にわたすハンバー橋 (Humber Bridge) は、 1981年の開通から1997年にデンマークのグレート・ベルト・リンクが開通するまで、 16年間にわたり世界最長径間の記録保持者だったのである (その後、 1998年に開通した日本の明石海峡大橋がグレート・ベルト・リンクから記録を奪い、 現在に至っている)。 それより少し前、 1970年代に開通したセヴァーン橋 (Severn Bridge) が、 いわゆる欧州形式の翼形断面の桁と斜めケーブルを用いる長大吊橋の先駆となったことも、 忘れてはなるまい。

このことを考えると、 大ロンドンのエリア内にあるはずのこのウリッジ (Woolwich) にこんな渡し船が残っているというのは、 まったくもって驚くほかない。

渡し船はウリッジ・フリー・フェリー (Woolwich Free Ferry) と呼ばれる。 渡っているのはテムズ川 (River Thames) である。 写真のように自動車も渡れて、 しかも料金は不要。 基本的に 「道路の延長」 と考えられているからだろう。

ウリッジ・フリー・フェリー (3)

テムズ川の両岸にあるウリッジの街を結ぶ渡し船の歴史は古く、 14世紀に10ポンドで売られたという記録まであるらしい。 しかし、 蒸気船を用いたフェリーが登場したのは1889年である。 現在は、 1963年に建造されたディーゼル船3隻によって運行されている。 平日は2隻、日曜日は1隻でサービスされるらしい。

では、 なぜ渡し船だったのか?

ウリッジ・フリー・フェリー (9)

ウリッジはロンドンの東のはずれに位置する。 ここまで来るには、 列車なら例えば北ロンドン線 (North London Line) で終点のノース・ウリッジ (North Woolwich) まで来ることになる (意外に時間がかかる)。 この付近でのテムズ川の川幅は、おおよそ300メートル程度か。 しかし、 河口まではまだだいぶあるにもかかわらず、 ここから下流でテムズ川を渡る橋はいまなおわずか1橋 (大ロンドンを取り囲むように走る環状モーターウェイ M25 に連なる有料道路) のみである。 ウリッジより上流側のいちばん近い橋といえばあのタワー・ブリッジなのである!

タワー・ブリッジが可動橋という形式を採用したことからもわかるとおり、 当時も現在もこの部分のテムズ川は船運の重要なルートであり、 大型船舶の航行が可能なように橋は桁下高さをじゅうぶん確保しなければならない。 タワー・ブリッジでもそのような橋が検討されたようだが、 けっきょく可動橋という解決策に落ち着いた。 日本の若戸大橋のような橋をかけるのは、 19世紀の技術では難しかったということなのかも知れない。

ウリッジ人道トンネルの北側入口

だが、 すでに21世紀。 必要ならそのような橋などいくらでもかけられるし、 橋がだめならトンネルという手も使える。 現に、 タワーブリッジとウリッジの間にはいくつか道路トンネルが開通している。 歩道トンネルという変なものもいくつか (このウリッジも含めて) ある。 船の運航だけだって人手がかかるし、 わずか300メートルほどの場所に巨大な桟橋設備をふたつも構えている。 しかも、 写真にあるようにアプローチの道路は木の橋脚で支えられているようだ。

ウリッジ・フリー・フェリー (19)

こんなものを維持するくらいなら、 橋かトンネルにしてしまった方が安いのではないか? だが、 こういうものもいくつかは維持するあたり、 英国の英国たるゆえんなのかも知れない。 それに、 フェリーはもはや「名物」、 あるいは地元にとっての誇りなのかも知れない。 もしこれが単なるトンネルだったりしたら、 少なくとも僕はウリッジを訪れることなど生涯なかったろう。

もちろん、 フリー・フェリーのすぐ北にロンドン・シティ空港ができており、 この渡河地点での交通量が激増する可能性が少ないという事実も無視することはできない。 だが、 日本をふりかえれば、 国じゅう至るところ新しい橋だらけだ。 そして国家財政は破綻に瀕している。 大ロンドンの近郊で100年以上も生き続け、 立派に機能している渡し船が、 そんな状況に対してひとつの示唆を与えてくれることは確かだ……

そんなことを考えながら、 乗船場そばのパブで飲むビールは、 確かに少しおいしかった。

ウリッジ・フリー・フェリー (13)

参考文献


画像に著作権表示の文字列がでる場合、 こちらをクリック。
高木 亮 webmaster@takagi-ryo.ac
(c) R. Takagi 2003. All rights reserved.