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鉄道ざんまい!「夢の鉄道」プロジェクト
"RT's Railway Zammai" --- Project "Railways of Dreams"

IPASS が目指すもの

その1 (1999. 11. 21.)

もくじ

IPASS

東京大学の 「交通システム工学(JR東海)寄付講座」 に在籍していた当時、 高木は 「IPASS」 という名前のシステムの研究をしていた。 Intelligent Passenger ASsistance System の略で IPASS というつもりだったが、 現在は何と iPASS 社とかいう会社があってインターネットのローミングサービスとやらを提供しているそうだから、 この名前をそのまま実用化するとまずいことが起きるに違いない。

Intelligent Passenger ASsistance System とは、 直訳すると 「知的乗客援助装置」 とでもいうことになろうか。 このうち 「知的」 という部分は何というかはやりの枕詞みたいなものなので、 訳すよりカタカナ言葉で 「インテリジェント」 といった方がよさそうに思える。 要するに、 何か最新の技術を駆使して乗客に便利なものを作ろうという以上のことはない。 実際に何かモノ(ハードウェア)を作ったということはなく、 システムを構成するためのコンセプトを長期にわたって議論したものであった。

寄付講座が開設されていた1995年度から1997年度までにかけ、 30本に近い対外発表をこの研究に関して行ったが、 寄付講座の3年間を通じてこのシステムを IPASS と呼び続けていたわけではない。 最終年度になって 「名前をつけよう」 ということになり、 議論の結果ついたのがこのような名称である。 IPASS の PASS は当然定期券などを意味する pass を意味している。 いわば intelligent pass とひっかけてあるというわけだ。

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A氏の現在と未来

ところで、 1998年3月に東大の寄付講座が終了する際に開催された講演会に、 高木は 「IPASS の思想 ……情報が変える公共交通」 なる資料を準備し、 報告講演を行っている。 この資料の第1章に 「A氏の現在と未来」 なる文章があり、 IPASS 導入前と導入後の世界を比較している。 とりあえず読み物としても読みやすくなっていると思うので、 まずはこれをそのまま紹介することから始めよう。

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A氏の現在

「普通の日」の通勤

A氏は、 少し前の日本人に多かった、 ちょっとワーカホリックなサラリーマンである。 毎日、 結構つらい仕事をこなしている (と、 少なくとも自分は思っている…けれど家族がわかっていてくれるかどうか)。 そのせいでいつも何となく疲れた気分だ。 年齢的にはまだ座席を人に譲るべき年齢だと思ってはいるのだが、 背に腹は代えられず、 座席がほしいと思っている。 だから、 そのためにはそれなりの努力をする。

彼の家はとある環状路線のP駅にある。 そこから環状路線を10分ほど短区間乗車すると、 Q駅でそこから都心に至る放射路線に接続する。 Q駅から都心のT駅まではおおよそ40分ほどの道程だ。 T駅からは、 職場のそばまでバス路線が出ているので、 それに乗れば楽である。

環状路線は比較的混雑している路線である。 電車も何だか音が大きく、 乗り心地も悪い。 朝の時間帯には、 P駅からの乗車の客はほぼ誰も座席を得ることはできない。 10分だからということで、 ここではいつも座席獲得はあきらめている。

環状路線は電車の本数もそれほど多くはない。 今朝は、 P駅までの道を歩いていたら土手の上の線路を電車が走ってくるのが見えた。 その場所は、 そこで電車を見たらもうその電車には間に合わない、 というポイントである。 実はそこは目の前にホームがあるのだが、 改札口が遠いため回り道しなければならないのだ。 A氏は疲れているから、 そこで電車をみるといつもちょっとがっかりする。 それでも、 いちおう間に合うかな、 と思って努力はしてみる。 改札口で定期券をポケットの中から探り出して (鉄道用の定期券が2枚ある上、 バス用の別なカードもあったりするので不便きわまりない)、 改札ゲートに投入する。 ゲートから出てきた定期を受け取って (導入から何年も経ったはずなのにA氏はこの動作が未だにうまくできない)、 階段を急ぎ足で上がってみるが、 電車はドアを閉めて動き出した後であった。

そういうわけで、 通りすぎてしまった電車をやや恨めしい気分で見送る。 1本あとの電車で10分間もみくちゃにされながらQ駅へ至る。 Q駅からは放射路線に乗るのだが、 Q駅から1駅、 3分乗車でたどり着くR駅から都心方面への始発電車が出ているので、 A氏はいつもここで始発電車を待つ行列に加わることにしている。 実は、 この路線には300円ほどの料金で座席をかならず確保できる 「通勤ライナー」 が何本か出ているのだが、 時間帯が悪いしきっぷ自体も入手が困難なので、 A氏はあまり使ったことがない。 10分ほど待つと次の始発電車がやってくる。 これに乗れば35分ほどで都心のT駅だ。

T駅からのバスで10分ほどで会社の前に着く。時計を見ると、自宅を出てからす でに1時間30分近くが経っている。途中の乗り継ぎが多いから、距離のわりには 時間がかかるのだ。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

仕事が終わるといつも午後9時くらいである。 A氏はもう少し早く帰りたいと思っているのだが、 忙しいとなかなか思うようには行かない。 この時間になると電車もそれなりに空いてくるので、 帰りはあまり座席獲得行動はしないことにしている。

バスでT駅まで出ると、 そこから放射路線に乗ってQ駅まで行くが、 この路線は途中のS駅からQ駅まで複々線になっており、 S駅で快速線に乗り換えれば早く着くことがある。 ところが、 乗り換えるためには階段を渡って別ホームに行かなければならないからめんどうだし、 緩行線より混んでいる。 だいいちいつも早く着くというわけでもない。 快速電車の本数は少ないうえ、 途中で 「特急待ち」 とかいって長時間停車するものもある。 また、 仮にうまく接続する快速電車があってQ駅に早着しても、 そこからは環状路線でP駅に行かなければならない。 環状路線の接続電車が1本早くなるのでなければ、 わざわざ快速電車に乗り換える意味もない。 帰る時間があまり一定していないのでよくわからないのである。 昨日は乗り換えてみたが、 環状路線の電車を待っているうちに乗り換え前の緩行線電車が到着してしまい悔しかった。 今日は乗り換えないでそのままS駅を通過したが、 すぐに快速電車に追い抜かれた。 Q駅ではタッチの差で環状路線の電車を逃してしまった。 乗り換えておれば10分早く家についたのに……

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ダイヤ乱れの起きた朝

さて、 翌日も同じような日常……と思いきや、 いつものP駅からQ駅までは同じだったのに、 Q駅からの電車がトラブルでストップしてしまった。 Q駅からいつもの通りR駅までは電車に乗っていたが、 R駅でやや慌てた声の駅構内のアナウンスが、 「U駅で人身事故発生、 この電車はここでしばらく止まります」 といった。 最近こういうことが多いんだよなあ。 しかし、 U駅といえばA氏の下車駅であるT駅よりさらにずっと先の駅だ。 なんでこんなところまで止めなければいけないんだろう、 と疑問にも思う。

駅員に聞いてみても、 開通の見込みなどに関してはさっぱり要領を得ない。 待ったらいいのか、 待たずに振替輸送を利用したらいいのか、 といった情報も十分ではない。 いつも利用する路線以外のことは、 A氏はあまり知らないのだ。 駅員から振替乗車証をもらってはみたが、 振替路線の最寄り駅もどこにあるかよくわからない。 仕方ないから、 会社に遅刻する旨の連絡をして、 電車に戻ってみた。 乗客はほとんどが他路線に回ったので車内は空席まで出ている。 A氏は腰かけて、 この電車が動き出すまでじっくり待つことにする。 結局、 会社には1時間ほどの遅刻で着いた。

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会社から出先に移動

A氏は外回りが多い人でもある。 今日は、 H地区にある会社から訪問先のあるK地区まで出かける予定である。

おおよその場所は知っているが、 実際どういったらよいのか詳細は調べなければわからない。 まず、 H地区からK地区までを直結する地下鉄はない。 バスもない。 バスは、 途中で乗り継ぐことにすればそういう路線もあるが、 乗り継ぐ前のバスが本数が少なく、 いつ来るかもわからない。 乗り継ぐと運賃が倍になって高いのも痛い。 地下鉄も乗り継ぎすればないことはないが、 駅が遠くて乗車距離も短いので、 歩いた方が速いくらいだ。

いちおうルートを頭に入れて、 時間をざっと計算しておいた。 出発は1時ころでよいはずだったのだが、 今日は朝の列車事故のせいで仕事に手間取り、 出発が少し遅れてしまった。 そうなると、 これはタクシーだ! 小遣いが気になるが、 仕事が大事だから、 仕方がない。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

出先での仕事がやっと終わり、 会社への帰り。 いつも駅の入口ではまごついてしまう。 どう帰ろうか。 手持ちの回数券で入場できるか? ストアドフェアチケットは使えるか? 定期券との関係は? ……などなど。 間違えた切符を自動改札に投入してベルを鳴らしたことも数知れずある。 この間は、 回数券で入って乗り継ぎをしたら乗継ぎ割引が適用にならないことを知ってびっくりした。

A氏の会社の同僚にいわせると、 A氏はいろんな切符を買い込み過ぎるんだそうだ。 確かに、 現金でいつでも押し通していた方が、 悩むことは少ないかも知れない。 券売機前の行列にいつでも並ばなければならなくなるけれど。

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出張する

A氏は出張も多い人だ。 しかし、 忙しいから予約のためにいちいち駅や旅行会社に出向くのは面倒である。 それと、 高い会費を払っているクレジットカードを持っているので、 ポイント集めにそのカードを使いたい希望もある。

駅の窓口は、 最近しまっている時間が長くなったので、 夜は比較的遅い時間まで会社にいるA氏にはちょっとつらい。 だいいち、 他社のクレジットカードはまったくアクセプトしてくれない。 鉄道会社のカードはよそで使えないから不便だし、 電話予約はできるが結局のところ窓口に切符を取りに行かなければならない。

今日は外回りの帰りに時間がとれるので、 A氏はクレジットカードOKの旅行会社に寄ってみることにした。 特急列車の指定券を頼んでみる。 ところが、 依頼した列車の指定席はとれないとの返事。 あきらめて自由席の券を購入する。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

そして出張の当日。 忙しいA氏は、 出発直前まで働いていたので、 特急の始発駅に着いたのは列車出発の5分前である。 自由席はほぼ満席で、 座れる場所はないようだった。 これから立ち通しでは疲れるなあ、 と思い、 指定席車を覗いてみたら、 意外に空席がある。

車掌が歩いてきたので、 試しに指定席への変更ができるか聞いてみたら、 適当な席に案内してくれた。 車掌氏は 「誰か切符を持っている人が来るかも知れないけど、 来なければそのまま座っていてけっこうです」。 こういうことをいわれると何だか落ち着かない。 通路を人が歩くたびに、 僕の席の指定券を持った乗客じゃないかと思うので、 どうも居心地が悪いのである。 それでも、 立っているよりはマシなので (この列車はよく揺れるのだ)、 座ってじっとしている。 結局、 目的駅まで誰も現れることはなかった。

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休日の家族旅行

A氏は 「家族サービス」 も忘れない。 妻と子ども2人との4人家族 (本当はA氏の両親もいるが家族旅行にはほとんどついて来ない) で、 自宅にある自動車に乗って、 休日はわりあい頻繁にどこかに出かけている。 忙しいA氏にとってはいい骨休めにもなっている。 自動車なら4〜5人の家族を連れていっても安いものだ。 しかし、 最近子どもの一人が列車に乗りたいとか言い出したので、 休日の高速道路の渋滞が激しいこともあり、 A氏は今度は電車を試しに使ってみようと思い立った。

電車はどうも費用が心配である。 忙しい仕事の合間をぬって、 A氏は時刻表などを必死にサーベイし、 安上がりと見られる切符を慎重に選んだ。 予約は出張の列車の予約と一緒に旅行会社でやっておいた。

ところが、 休日になって旅行にいざ出かけようというときになって、 駅の看板でずっと安い切符があるのを知った。 あんなにサーベイしたのに、 あの努力は何だったのだろう。 時刻表を見落としたかと思ったが、 最新号にも記載がない。 どうやら臨時販売のものだったらしい。 A氏はもうれつに悔しい思いをしたが、 妻の手前何もいわずに黙っておいた。

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買い物に出かける

A氏は買い物も趣味である。 旅行にいかない日曜日には、 小遣いを持って近所のデパートにゆくのが好きだ。 家族をつれて出ることもある。 でも、 買い物では電車を使うことはほとんどない。 一度にたくさんの買い物をすれば、 電車では手荷物が面倒だ。 切符を自動改札に入れるのだけでも苦労する。 子どもを連れていけば、 電車内で座席に座れないとかいっては騒ぎだす。 しつけがなっていないのかも知れないが……。 ドライブは疲れるからあまりしたくないが、 やはり電車には足が向かない。

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年老いた人や車椅子の人と出かける

A氏の両親は年齢 (70歳近い) のわりには元気な方で、 タクシーでなら頻繁にデパートまでは出かける。 しかし、 電車は利用したがらない。 タクシー代は同居しているA氏持ちである。 A氏としては、 費用のこともあるし、 もう少し電車にも乗ってほしいと思っている。 そこで、 「たまには運動がてら電車にでも乗ってみたら」 と、 週末に無理をいって連れ出してみた。 ところが……。

駅までは何とか着いたが、 そこでまず自動券売機や改札機の操作がわからない。 誰に聞いたらいいかもわからない。 もうこの段階で両親は相当気がそがれた感じで、 「いつもはタクシーに乗っているのにどうして…」 と相当不満げである。 また、 最近は最寄り駅にエスカレータなどがついたが、 道案内のA氏自身、 それがどこにあるのかわからない。 階段は両親には相当つらいようだから、 駅員に尋ねて何とか場所を教えてもらった。 プラットホームにようやく上がったが、 今度は電車内も座れるかどうかわからない。 座席の確保しやすそうな位置を狙って乗ったつもりだったのだが、 結局空席はなく、 誰かが親切に座席を譲ってくれた。 電車を降りてからも、 水平ではあるが相当長い距離を歩かされた。 A氏としては、 今度はこうすればいいからね、 と電車のカードを両親にあげるつもりだったのだが、 両親はもう電車にはテコでも乗ろうとせず、 帰宅は結局タクシーでということに相成った。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

一方、 A氏の義母は車椅子生活である。 あまり出歩かないから、 A氏やその妻がよく車であちこち連れ出してやっている。 今度の週末もそうする予定にしていて、 A氏と妻が行先の相談をしているとき、 「そういえば最寄りの駅に車椅子用のエレベータができたよ」 という話になった。 それを聞いた妻が 「車に乗せるのもいいけれど、 たまには電車で…」 と乗り気になったので、 今度は電車で出かけてみようということになった。

ところが、 駅でまっさきに駅員から 「車椅子の人が乗るんなら前もって連絡してくれ」 といやみをいわれてしまった。 少し頭に来たので 「私たちでなんとかしますよ」 と言おうとしたのだが、 駅員は何やら電話を始めてしまったのでだまっていることにした。 エレベータでホームに上がり、 電車に乗ってみれば、 車椅子スペースに先客が座っている。 駅員が 「車椅子の人だからお席をお譲り下さい」 と車内に一声かけたので、 その先客はようやく立ち上がってくれた。

降りる駅では、 最寄り駅の人から電話で連絡を受けていたと覚しい駅員が待ち構えていて、 A氏一行は車椅子スペースからエスカレータのところまで延々と案内されたが、 この距離が長かった。 ついで、 その駅員は車椅子を載せる機能の付いたエスカレータを操作して、 車椅子ごとエスカレータに乗り込んでコンコースに降りた。 この間他の乗客はエスカレータが使えないから、 かなりの数の人が回りで見物をしていて、 ちょっと恥ずかしかった。 いつもの外出では嬉しそうな義母なのだが、 今日はあまり嬉しそうではない様子であった。 A氏は、 妻と 「帰りはタクシーにしようか」 と話し合った…。

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外国人を案内する

A氏は仕事がら外国人を案内することも多い。 大抵の外国人は何度も日本に来ているリピーターなので、 こちらも 「いつどこに来てね」 と (英語でだが) 伝えればいいので、 話は比較的容易である。 しかし、 不慣れな人を空港まで迎えにいくとかいうことになると、 厄介なことになる。

たまに、 観光案内書で調べたのか、 ジャパンレールパスを持ってくる外国人がいる。 ところが、 成田空港にはJRと民鉄があって、 JRは 「成田エクスプレス」 ばかりで予約がほとんどとれない、 一方の民鉄はそもそも使えない……というのを説明するのは、 同僚に比べれば 「話せる方」 とはいえ英語力に完全な自信のないA氏としては一苦労である。

人によっては、 切符の買い方をいちいち教えなければならないこともある。 こうすればいいんだよ、 とどこかで教えて、 別な駅でも大丈夫だろうと思って放っておいたら、 別な駅では細かな違いがあってそのやり方ではうまく行かなかった、 というケースもあった。

ストアドフェアチケットみたいにきっぷをいちいち買わなくて済むものは便利かと思って勧めたことがあるが、 使い方がよくわからないうえ、 相互乗入運転路線で直通先では使えないなどとトラブルになったことがあり、 その後は使ったことがない。

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A氏の近未来の姿

では、 そのA氏一家が、 IPASS導入後の世界においてはどうなっているかを、 少し控えめに描いてみよう。 IPASS の実現はおおむね15年程度先と我々は考えているが、 詳細な比較を試みたいという書き手側の都合があるので、 ちょっと無理な仮定だがA氏一家や会社には15年後に単純にタイムスリップしてもらうことにする。 だから、 家族構成も、 A氏のお仕事の内容も、 基本的には何も変わっていない。

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「普通の日」の通勤

さて、 突然のタイムスリップから1月、 IPASS導入後の世界にもだいぶ慣れたA氏の朝は、 まずIPASS機能付の携帯電話装置に手をやり、 座席予約の操作をすることから始まる。 専用のボタンを2度ほど押すだけで操作は完了、 自宅出発時刻が7時25分などと表示される。 今は6時50分だから、 朝食をゆっくりとって余裕を持って出かけることができる。 出かける時間には、 電話が鳴って知らせてくれる。

アラームが鳴ってから、 おもむろに妻に行ってくるよと声をかけて、 A氏は最寄りのP駅に向かって歩き出す。 もちろんIPASS機能付の電話機は忘れない。 歩く時間をゆっくり目に登録してあるから余裕があるが、 まだIPASS導入前の癖が抜けずA氏相当な早足である。 P駅が近づいてきたところで、 乗るはずの電車の1本前の電車が滑り込んでくるのが見えた。 今までなら乗車をあきらめていた位置だが、 今では通路ができていて、 大きな回り道をせずにホームに到達できる。 A氏はポケットからさっと電話機を出して、 ボタンを押す。 1本前の電車には空席があるかどうかを調べるのだ。 2秒ほどで空席ありの返事。 A氏すかさずボタンを押し、 予約変更完了。 改札口には従来あった改札装置がないので、 A氏はそこで手間取ることなく、 駆け込むというでもなくスマートに列車内に滑り込むことができた。

列車はP駅から直通で都心のT駅まで行くようになった。 途中何回かの停車はあるが、 列車が自動車のように短い間隔をおいて走る 「ソフト連結」 とかいう技術のおかげで乗換の回数はぐっと減ったし、 途中停車の回数もずいぶん減らされた。 通勤時間も従来より15分は短くなったと思う。 何より嬉しいのは、 予約すれば座れるようになったことだ。 駅に掲げてある時刻表は何だか複雑で読みにくくなったが、 IPASS 機能のついた電話機や携帯パソコンなどが売り出されており、 IPASS システムの指示に従っていれば特に困ることはない。 それどころか、 この種の電話機等を持ち歩いていれば、 時刻表なしでいつでもどこでも列車に関する情報が手に入るのだから、 従来よりは格段に便利になった。

事情は帰宅時も同じだ。 今までは、 S駅で快速電車に乗り換えたりする際に神経を使っていたものだが、 IPASS のおかげでT駅から直通の列車が多数運転されるようになり、 そもそも乗換自体が不要になった。 線路がつながっている鉄道である限り、 乗換を行なう機会はほとんどなくなったようだ。 電車は予約すれば座れるし、 急ぐ時は立席を選択することもできるようになっている。

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ダイヤ乱れの起きた朝

IPASS が導入されたが、 人間のやることはあまり変わっていないようで、 A氏は今朝は人身事故に遭遇した。 まだホームドアが完全に普及していないため、 一部の駅で列車との接触による事故が完全にはなくなっていないのだ。 P駅から、 従来の乗換駅だったQ駅を過ぎ、 A氏が IPASS 導入前によく座席を得るため始発電車を待ったR駅あたりまではすんなり走った (ソフト連結列車は、 ほとんどの途中駅は通過するから、 Q駅もR駅も停車駅ではなくなっている) のだが、 そこから列車のスピードが落ちはじめ、 それと同時に車内放送で 「U駅で人身事故発生、 IPASS 端末等の案内表示をご参考になさってください」 とアナウンスがあった。

IPASS 電話機をとりだし、 例のボタンを何回か押すと、 代替ルートの予約が確定できる。 A氏は次の停車駅でこの車両を降り、 IPASS 電話機に表示された案内を頼りにあまり利用したこともない別な鉄道会社の駅にたどり着いた。 駅員の対応も悪くなく、 駅での大きな混乱は見られなかった。 あとは、 カードの案内通りに乗車していれば会社に着くから安心だ。 会社には IPASS システムからファックスが届くからこれも安心、 自分から電話をすることもない。 着いたのは20分遅れだった。 T駅から会社までのバスはT駅と都心部の別な駅とを結んでいる路線だったが、 この日A氏は始めてその別な駅から会社までの区間を乗車することになった。 へえ、 と思う。

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会社から出先に移動

タイムスリップ後も外回りが多いA氏だが、 外回りは今までよりずいぶん楽になった。

A氏の電話機はスケジューラも兼ねる多機能タイプで、 何時にどの会社に行くか、 というのがメモしてある。 会社名は直接 IPASS コンピュータセンタに通信され、 A氏はボタン一つでいろいろな予約を手早く完了することができる。 何時に約束があるかもついでに連絡されるから、 A氏はアラームが鳴るまで仕事をするなり、 仕事場でコーヒーをすするなりすることができる。 いよいよ忙しくてまだ出られないよ、 ということになれば、 自動的にタクシーを呼び出す機能さえある。 まるで秘書がいるみたいだ。

IPASS なら、 地下鉄だけでなくバスの時刻も確実にわかる。 ただ、 バスに乗る場合は出かける前にもう一度 IPASS 電話機をのぞき込んでおいた方が安全だ。 バスは運行が乱れることがあるからだ。 しかし、 運行が乱れれば乱れたなりの案内をきちんとしてくれるから、 従来よりはずっと多くの人が安心してバスを利用するようになった。 LRT の路線も増えた。 バスは、 本数も増えて従来よりほんとうに使いやすくなった。 バス停の位置、 乗るべきバスの種類、 そして降りてからの道順なども、 端末装置に表示できるようになっているから、 実に便利だ。 その分、 都心で地下鉄に乗る機会は、 少し減ったかも知れない。

出先での仕事がやっと終わり、 会社への帰り。 駅の入口でまごつくことももうない。 IPASS 電話機ひとつあればいいのだから。 従来のように改札口でどの切符にしようかなどと迷うこともなくなった。 支払方法も、 クレジットカード、 現金のプリペイ、 会社への請求送付など、 いろいろなものが便利に選べるようになった。

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出張する

A氏は相変わらず出張も多い人だが、 IPASS があるために出張旅行の予約は本当に楽になった。 だいいちに、 予約のためだけに駅に行く必要がない。 予約はボタン一つでセンターを呼びだし、 画面上の操作ガイドに従って操作すれば予約を行なうことができる。 スケジューラ一体型の IPASS 電話機だから、 スケジュールを入れた時に同時に予約を入れてしまう手もある。 出張日のずっと前に予約をとれば安く乗れることもある。 高くても良ければ、 当日駆け込んでもだいたい大丈夫ではある。 車掌さんに声をかければ、 端末装置を操作して空席に即座に案内してくれる。

IPASS が使えるようになったA氏は、 今までより込みいった予約をするようになった。 実は相当な鉄道マニアだったらしく、 ときどき 「XXX形式のYY号車ZZ席が欲しい」 とかいうことも増えた。 そういう場合はさすがに IPASS 電話機では対応し切れないので、 オペレータコールボタンを押すとオペレータが応答してくれ、 手動操作で適切な予約を入れてくれる。

最近、 他に比べて極端に混んでいる列車とか、 逆に極端にすいている列車とかいうのはあまり見かけなくなった。 喫煙席がすいているのに禁煙席の予約がとれないとかいうこともあまり聞かなくなった。 理由は乗客にはよくわからないが、 鉄道会社の広告によれば IPASS が乗客数などに関するいろいろな統計処理をするせいであるらしい。

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休日の家族旅行

相変わらず 「家族サービス」 も忘れないA氏、 自分自身も旅行好きだから、 IPASS 電話機の申込時に旅行情報を端末装置で受け取る設定をしてある。 今朝、 何気なくその端末をいじっていたら、 最近企画されたらしい安い旅行商品の広告が出てきた。 A氏は早速電子メールで詳細を送ってもらうようにカードをその場で操作した。 なかなかよさそうな企画で、 価格もリーズナブルなので、 これで今度の週末はゆっくり旅行してみようと思う。

自宅に帰り、 その電子メールを見せて、 妻や子どもたちの希望や都合を聞いて、 それから IPASS 電話機のボタンを何回か押せば、 それで操作は完了である。 定期券を所持している乗客にはちょっとした割引がついてくるのが嬉しい。 家族割引もあるし、 家族のための専用スペース (4人個室など) も、 あれば簡単に予約できるようだ。

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買い物に出かける

相変わらず買い物も趣味のA氏。 今日は家族をつれて電車でデパートに出ている。 子どもが座席に座りたいとかいろいろいうので、 列車に乗る前に家族分の予約を入れた (ただ、 そうしたら 「やっぱりいちばん前で立って景色を見たい」 とか気まぐれなことを言い出したので、 わがままをいうなと少しだけ叱った)。 予約ができるおかげで、 前よりは子どもと出かけるのが楽になったと思う。

最近はデパートが手荷物託送サービスをずいぶん安い値段で提供するようになった。 しかし、 きょう購入したものはすぐに使いたいので、 駅で手荷物カートを借用した。 カート用のスペースが電車内に用意してある。 このスペースは昔は車椅子スペースと呼ばれていたが、 IPASS 導入後は手荷物カート、 車椅子などいろいろなものを固定する目的に使われるようになって、 カートスペースとかと呼ばれている。 カート借用時にこのスペースを予約すればいい。 カートは一時的に自宅に持ち帰ることもできる。 最近、 一部のコンビニエンス・ストアが商品の配送にこのカートスペースを使うようになった。

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年老いた人や車椅子の人と出かける

A氏の両親は相変わらず元気だ。 幸い最近は電車を使ってデパートにいってくれるようになり、 A氏は支出が減って大喜びしている。 さすがに、 A氏が使っているのと同じカードは強い老眼の両親にとってはボタンが小さすぎ、 操作が面倒なようだ。 そこで、 自宅の電話機を IPASS カードのような IC カードを挿入できるタイプのに買い替えた。 両親は老人割引料金で利用可能なので、 市からもらった特別のカードをきっぷ代わりに利用している。 電話機にカードを突っ込んで、 オペレータと話をして予約をすると、 ミニタクシーが近所のバス停までサービスしてくれる。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

一方、 車椅子生活のA氏の義母も、 最近は電車に乗るのをいやがらなくなった。 車椅子の電車利用はカートスペースの予約でOKなので、 今までのように車椅子スペースに先客が座っているかどうかなどと気にする必要はなくなった。 まだ一部の駅では係員の手助けがいるが、 そのようなものも含めて一切電話一本で予約や指示ができるようになった。 当然、 予約の際には駅でのエスカレータ・エレベータの位置関係も考慮してくれている。

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外国人を案内する

これまた相変わらず外国人を案内することも多いA氏だが、 IPASS のおかげでこの仕事もずいぶん楽になった。 何しろ、 このカードを持っていれば大丈夫、 と、 空港で IPASS カードを申し込ませればよいのだ。 クレジットカードの番号を登録しておけば、 あらかじめ設定した許容範囲内ならいくらでも乗車可能になる。 案内も主要な言語の表示はできる (人によっては、 音声案内を選択することもある)。 都心の主要なホテル名を入力できる機能もあり (今のところ我々には手が出なさそうな高いホテルばかりだが…)、 都心ターミナルから出るバスも案内してもらえる。 従来は外国人には利用が難しいとされていた路線バスも、 これがあれば簡単に利用できる。

A氏は、 空港で外国人に IPASS カードを渡して電車に乗ってもらうと、 日本の進歩が実感してもらえたかな、 と少し考えてみる。 なかなかこれだけのシステムは世界にもないだろうと思う。 ただ、 ジャパンレールパスの取扱だけは相変わらず面倒で、 多少のトラブルがまだ続いている。 これはどうも制度の問題で、 インテリジェントな電子システムを導入したからといってどうなるものではないみたいだ……。

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更新履歴

  • 2000. 1. 23.……デザイン手直し等
  • 1999. 11. 21.……初稿

高木 亮 / TAKAGI, Ryo webmaster@takagi-ryo.ac
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