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鉄道ざんまい!「夢の鉄道」プロジェクト
"RT's Railway Zammai" --- Project "Railways of Dreams"

ITSとの競争

その2 (2000. 1. 12.)

目次

ITSとの競争

その1で述べたようなシステムは、 実現すれば確かに理想的であることは多くの共感を得られることと思う。 しかし、 相当先端的なコンセプトで開発を始めてみたが、 実現した時点でみたら大したことなかった、 ということは、 特に技術進歩の早い分野ではよくあることである。 しかし交通システムについて過去30年ほどの間をみると、 高速道路網や空港などの量的拡大は見られるものの、 質的にはそれほど大きな変化が起きているわけではない。

例えば、 自動車の性能や車内の居住性は確かに向上したし、 運転操作も従来に比べ相当容易になったといえると思うが、 輸送能力が低いとか駐車スペースが必要とかいう問題点は基本的に解決されていない。 高速道路も元々制限速度が極端に低かった日本を除けばむしろ低速化の趨勢にあるようだ。 航空機もジャンボジェット以降大きなブレークスルーは見られない (超大型機の開発をするとかいう話は聞いたことがあるが) し、 船舶分野でも新しい圧倒的な技術が台頭したという話は聞かない。 1980年代に鉄道の最高速度が200km/hから300km/hへと大幅に向上したが、 これがむしろ例外といえるのではないかと思う。

これらのうち、 数量面で他を圧倒し、 社会においてもっとも中心的な役割を担っているのはやはり自動車なのだろう。 自動車と同じ陸上交通を担う鉄道としても、 主な競争相手として想定されるのはやはり自動車である。 しかし、 いわゆる地球環境問題の深刻化の状況をみれば、 従来の自動車文明の発展の延長線上を今後も突き進むことができないのはもはや明らかである。

では鉄道は自動車文明の 「行き詰まり」 を座して待てばよいのだろうか。 僕にはそうは到底思えない。 自動車というモノは技術開発が進めばまだまだ 「大化け」 する可能性があると覚悟しておかなければなるまい。 その 「大化け」 をもたらす可能性がある技術開発の動きとは、 やはりいわゆる ITS ということになろう。

この ITS というのは日本語では 「高度道路交通システム」 の略ということになっているが、 これは一種の誤訳であると思う。 英語 (Intelligent Transport System) をみればわかるように、 そもそも 「道路」 に限定される概念ではなく、 鉄道やバスのような公共交通システムも含め、 何らかのインテリジェントな制御システムによって画期的な改善を図ろうとする考え方なのである。 しかし、 実際にはこのムーヴメントに鉄道がそれほど強力に 「巻き込まれ」 ているわけではなく、 その実態がそのまま日本語に反映されている、 ということなのだろうと思われる。

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自動運転の秘める可能性

運輸省のウェブページに 「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想の策定」 という文書がある。 これによれば、 運輸省を始めとする関係5省庁は、 今後20年間の高度道路交通システムが目標とする機能、 開発・展開に関わる基本的な考え方等の長期ビジョンとして この構想をとりまとめ、 20のITS利用者サービスを定義し、 9つの開発分野別に研究開発、 展開に関する産学官の努力目標を設定した、 とある。 建設省道路局のサイトには ITSホームページ と題するページが用意されていて、 ここにこの9開発分野及び20の利用者サービスの詳細が記されている。 以下の表にその内容をまとめてみよう。

表1: ITSの開発分野と利用者サービス
開発分野 利用者サービス
1.ナビゲーションシステムの高度化 (1)交通関連情報の提供
(2)目的地情報の提供
2.自動料金収受システム (3)自動料金収受
3.安全運転の支援 (4)走行環境情報の提供
(5)危険警告
(6)運転補助
(7)自動運転
4.交通管理の最適化 (8)交通流の最適化
(9)交通事故時の交通規制情報の提供
5.道路管理の効率化 (10)維持管理業務の効率化
(11)特殊車両等の管理
(12)通行規制情報の提供
6.公共交通の支援 (13)公共交通利用情報の提供
(14)公共交通の運行・運行管理支援
7.商用車の効率化 (15)商用車の運行管理支援
(16)商用車の連続自動運転
8.歩行者等の支援 (17)経路案内
(18)危険防止
9.緊急車両の運行支援 (19)緊急時自動通報
(20)緊急車両経路誘導・救援活動支援

では、 こうしたプロジェクトが実現するとどんな 「よいこと」 があるのだろうか。 に掲げられた開発分野のうち 5., 7., 9. は一般人には関係なさそうだ。 また、8. は歩行者のため、 6. は公共交通の利用者にとっての改善を目指すものであるから、 「自動車に乗っている人」 の利益には直接関係がない。 他の4分野が自動車交通の自動車利用者からみた改善に該当すると思われるので、 これらについて考えてみよう。

これらのうち、まず 2.「自動料金収受システム」 とは今年から千葉県の日本道路公団の有料道路を中心に実用化試験が始まるETCシステムのことだが、 主なシステム採用の動機は (少なくとも今のところ) 「料金所渋滞のようなものを少なくすること」 と要約できそうである。 近い将来東京都区部などで自動車利用の全面有料化を図ろうという動きがあるが、 そのような場合にETCは料金収受の事実上唯一の手段となる。 しかし、 料金収受ができるようになること自体は特によいこととはいえない。 いわゆるモーダルシフト等をこのような手段で進めようとすると、 とてつもなく高い料金を設定しなければならず現実的でないことが多い。 料金だけで様々な問題の解決を図るのは困難と見た方がよさそうである。

1. 「ナビゲーションシステムの高度化」 に関していうと、 現状のナビゲーションシステムもすでに相当なレベルに達している。 昨年(1999)九州で借りたレンタカーに可搬形のカーナビがついていたが、 これが非常に便利であった。 可搬形なのでGPSによる位置情報のみに頼る案内であり、 残念ながら山中など衛星との通信状態が悪い地域に入るとうまく動作しなくなるのだが、 これは車両直付けのタイプのものなら他の情報で補完ができるものと思われる。 いわゆるVICS対応のはまだ体験したことがないが、 これも普及開始当初の評判としては 「なかなかよい」 と聞いた。

現状でもこういうレベルにあるナビゲーションシステムがさらに高度化するとなれば、 「案内によって自動車交通流を 『望ましい状態』 に近づける」 ことを考えなければならないと思われる。 だとすればそれは 4. 「交通管理の最適化」 と一体となったものにならざるを得ない。

ところが、 その 「最適化」 をナビゲーション情報によって図ろうとするとき、 その情報にどの程度の人が従い、 どの程度の人が従わないか、 といったことが問題になるはずである。 よくいわれることだが、 あるクルマのシステム全体にとっての最適な動きとは、 そのクルマを運転している個々の運転者にとっての最適な動きとは異なる可能性がある。 もし、 ナビゲーション情報と異なる動きをした結果運転者が大幅にトクをするような経験をしてしまうと、 ナビゲーション情報自体が信用されなくなり、 それによる最適化の効果も失われてしまうことになりかねない。 あるいは逆に、 ネットワーク上のあるボトルネックを解消すべくナビゲーション情報を与えた結果、 運転者が一斉に行動を変更し、 結果別な場所にボトルネックが現れる、 というようなことも考えておかなければならない。

これらとはやや異なる重要なテーマとして 3. 「安全運転の支援」 がある。 詳細は本稿の目的とは異なるためここでは触れないが、 ここにカテゴライズされた利用者サービスのなかに (7) 「自動運転」 というのがあることにご注目頂きたい。 前記したナビゲーション情報と運転者の実際の行動の関係の問題は、 自動運転においては容易に解決可能になる。 自動車が完全にナビゲーション情報に従うことが仮定できれば、 そもそも問題自体が存在しなくなってしまうだろう。

逆に、 自動運転を前提にすればどのような世界が広がるかを考えてみると、 鉄道を研究対象とする者としては絶望的にならざるを得ないくらいものすごい可能性が開けることが、 少し考えただけでもわかる。 この自動運転の車両がその辺の道を現在の自動車のように走れる時代になったら、 その時点で鉄道の命脈は尽きるものと考えざるをえない。

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A氏の現在と未来・ふたたび

その1で 「A氏の現在と未来」 なる文章を紹介したが、 完全自動運転の自動車交通の存在を前提する状況下ではいかなる未来が考えられるのだろうか。 その1と同じく夢物語風に書いてみよう。

はじめに答えを要約して述べるなら、 それは実に簡単なことであり、 交通需要が交通容量を越えない限りにおいて、 自動車ですべて事足りる、 ということだ。 恐らくは、 以下に述べるように交通容量や駐車場容量に起因する制約がつくことにはなろうが…。

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「普通の日」の通勤

恐らくはこの場面がもっともその辺の制約がきつい条件になるのだろう。 A氏のふつうの日の朝は、 そのような制約があるため 「IPASS 導入後の世界」 とある部分ではそう大きく違わない。 自動車は全自動だが、 渋滞防止のため限られた道路走行 「枠」 を確保するため、 出発30分ほど前にカーナビに対し発時刻を入力しておく必要があるのである。 その後カーナビがセンターと交信し、 出発すべき時刻をX時Y分と返す。 それまでは朝食タイムである。 これは、 「IPASS」 においてA氏が毎朝 「座席予約」 操作を行い、 予約された列車の時刻に合わせて自宅を出発することに対応している。

さて、 A氏は当然その時刻になったら自動車に乗る (道路容量の制約がきついので、 この辺で遅れたりするとペナルティが少々高い問題はある)。 自動車は完全自動で、 都心から若干(2kmほど)離れた場所にある会社までA氏を運んでくれる。 渋滞がないから時間もかからない。 自動車を降り、ドアを閉めると、 自動車は無人のまま走り去る。 これは都心部に十分な駐車場がないからだが、 自宅の駐車場に戻れば必ず1台分はあるわけだ。 ただし、 会社付近の駐車場が空いていればそこに入ることもある。 都心付近の自家用車オーナーが、 自動運転車両に対してのみ自分のガレージを有料で使用させているケースがあるからだ。

帰宅時も前もって時刻を入力しておけば、 その時刻になると会社前にクルマが到着するように、 自動運転システムがA氏のクルマを勝手に走らせてくれる。 A氏は会社前で到着を待っていて、 着いたクルマに乗って帰るだけだ。

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ダイヤ乱れの起きた朝

「ダイヤ乱れ」に相当する概念は道路の事故や障害等だろうか。 この場合も自動運転システムが適切に回り道してくれるだけである。

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会社から出先に移動・出張する・休日の家族旅行・買い物

外回りも出張も家族旅行も買い物も、 カーナビに日付・時刻・行先等を入力すればそれでよい。 A氏のクルマは普段は小型のものであり、 それで用が済むならもちろんそれで済ますが、 出張、 家族旅行、 買い物等でより多くの人や荷物を運ぶ必要があれば、 2台目の自家用車を動かす設定をしたり、 場合によっては大きなサイズのクルマを1台借りたりすることもある。

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年老いた人や車椅子の人と出かける

このような人々の移動のためには、 個別の事情に応じた特殊な設備をもった車両がベストであり、 この点公共交通はどう頑張ってもかなわない側面がある。 移動の利便性自体はA氏の通常の行動と同一である。 こうした人に操作を教えておくのが面倒だが、 一度教えてしまえばあとは完全にひとりで行動ができるようになる。

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外国人を案内する

外国人を案内する場合も、 A氏は空港に出向くだけ。 あとはレンタカーを借りればそれでおしまいだ。

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更新履歴

  • 2000. 1. 23.……デザイン手直し等
  • 2000. 1. 12.……初稿

高木 亮 / TAKAGI, Ryo webmaster@takagi-ryo.ac
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