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2000. 4. 3. / April 3, 2000

あぶらとり紙
Oil clear sheets

Just after I changed over to the current post, I met many young freshmen of the company, whose ages range from 18 to 25 (some 10 years younger than I!). I saw some of them (male) buying "oil clear sheet", which seemed very strange to "the young at heart"; however, later I tried the oil clear sheet myself, and found that very refreshing... Now it is one of the items I carry everyday.

In Japan, the economy in total is still in the recession that have been continuing since the break of the "bubble economy". However, there are many kinds of individual merchandise that are booming in spite of the overall situation. The oil clear sheets for men are one of them. A feature article on the magazine "AERA" (published November 1999) points out that each of them is not a mere chance; instead, it is the fruit of the effort of the people in charge of its development. According to the article, the person directed the development of the oil clear sheet, like many other persons in charge of their own booming products, reads 50 books or magazines each month!


現在の職場に就職したてのころ、 法定安全教育ということでほんとうの新入社員と机を並べて研修を受けたことがある。 大学・大学院卒の人に混じって高校卒もいてなかなか面白かったが、 この就職難のなか電力会社が選んだ人々だからみんな優秀でなかろうはずもない。 何日間かしかなかったが、 いろいろな意味でいい刺激を受けた。

しかし、 こちらはいちおう若いけれど職歴もある身、 そして一方ははたちにも満たない若い人々とあっては、 価値観等が異なってもやむを得ない。 茶髪は当然のこと、 男性もいろいろなおしゃれグッズを使っている。

その中で何となく気になっていたのが 「あぶらとり紙」 であった。 彼らがコンビニエンスストアで 「これこれ、これがいいんだよ」 とか何とか言いながら買っていくのを見てはいたが、 その後も何となく手出ししないまま半年くらい経過した。

それが、 あるとき何を血迷ったか一箱購入してみたのである。 いくつかあって迷ったので、 とりあえずマンダムの280円くらいの樹脂シートタイプのやつを購入。 シートの大きさはほとんど名刺サイズで、 この程度のもので顔を拭いたからといって何になるのか疑問に思われた。 ところが使ってみると面白いように皮脂がとれるのである。

購入したあぶらとり紙のパッケージには 「効果が実感できる」 と書いてある。 使用前は青い不透明のシートなのだが、 あぶらをとるとその部分が半透明になってよくわかるよというわけ。 何かうまくだまされている気もするが、 確かに皮脂をとったあとはさわやかである。 こりゃなかなかよろしい、 というわけで、 まだまだ若いつもりの高木としてはこれを携帯必須アイテムに加えることにした。

こんなわけなので、 けっこうあぶらとり紙は売れているようである。 売れ行きに敏感なコンビニエンスストアに何種類ものあぶらとり紙が置いてあることからも、 そのことは想像がつこうというものだ。 あぶらとり紙だけでなく、 顔を拭くためのウェットティッシュみたいなのとか、 男性用ファンデーションまで置いてあるコンビニエンスストアもあった。 男性も化粧品を使うのがあたりまえな時代になったということなのだろう。

あるいはこんなことでもあるかも知れない。 日本人の、 特に男性は夏暑いと顔をハンカチで拭くが、 この習慣はヨーロッパなどの海外ではあまり見られないものらしく、 彼の地の人々からは非常に奇異に見えるのだそうだ。 確かに、 イギリスの影響を強く受けている香港あたりでは、 顔拭き用の紙がかたまりで売っている。 人々はそれを携帯していて、 必要なときにそれを出して顔を拭いて捨てるらしい。 あぶらとり紙のブームは、 日本もそういう文化に近づきつつあるあかしなのかもしれない。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

バブル崩壊以来長い不況にあえぐ日本経済だが、 こうして個別に見るとけっこう売れている商品がある。 昨(1999)年11月1日号の 「アエラ」 は、 こうしたヒット商品がどのようにして生まれたのかを探る特集号を組んでいるが、 これがなかなか面白いのである。

この特集号の広告をみたとき 「あ、 あの人は絶対出てくるな」 と思った。 あの人とはNTTドコモの増田智子さん。 あのポケットボードの開発を担当した若い女性である。 ウェブのMainich Interactive DIGITALトゥデイに、 以前 「まっすのポケボ通信」 というのを連載していたので名前を知っていた。 けっこうオモシロイのでオススメである。

さて、 アエラの特集記事では、 この人も含めヒット商品の開発担当者52人に一斉アンケートを行っているが、 これがなかなか示唆に富んでいる。

アンケートでは10項目の質問事項が並んでいたが、 特に:

  1. 「時代の流れを感じるために実行していることを教えてください」
  2. 「新しい着想を得るために実行していることを教えてください」
というのに対する回答が興味深い。

そのNTTドコモの増田さんの答えは:

  1. 雑誌は発売日当日に買う。
  2. 人が思いつかないような面白い使い方をしてみたりする。
だそうだ。 マンダムのあぶらとり紙の開発担当者は伊藤大(いとう・ひろし)さんという男性で、 こちらの答えはこうだ:
  1. 多くの雑誌、本を読む(月50冊位)。
  2. プライベートは仕事を忘れ、「素の自分」に戻る。
また、 「ダンス・ダンス・レボリューション」 (アーケードゲーム) のプロデュースをしているコナミの大田良彦さんの回答には:
  1. 人間観察。市場の動きを自分の目で見る。
  2. 月30冊以上の雑誌に目を通す。
とある。 この大田さんの回答では 1. と 2. の区別がついていないように思われる。 しかし、 有名な川喜田二郎さんの「KJ法」ではないが、 情報を集め処理していく過程で新しい着想が得られるとすれば、 恐らくはこのような混同のほうが自然なことなのだろう。

「アエラ」 はこの特集記事を通じ、 ヒット商品が生まれるのは 「運より必然」 であるとしているが、 このアンケートを見るとそれはまったくその通りだと思えてくる。 その 「必然」 を得るためにすることとして、 多くの開発担当者が 「多くの人と話す」 とかいうことだけでなく 「本や雑誌を大量に読む」 を挙げているのは実に興味深い。 活字の力を改めて感じさせられる。

それにしても、 雑誌を月30冊ともなるとこれはなみたいていのことではない。 日本人の創造力の欠如がいわれて久しいが、 創造力のベースにはこのような地道な努力が必要だということをこそ、 日本人は理解する必要があるのではないだろうか。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

さて、 そんなわけで大売れしているあぶらとり紙だが、 高木が使っているのと同じ青い樹脂シートタイプのもので、 使用後と思しいあぶらつきのやつが、 最近駅などで落ちているのを見かけるようになった。 顔をきれいにしてもこの種のルールやマナーを守らないのは恰好悪いと思うぞ。 せっかく顔をきれいにしたのなら、 そのあとのあぶらとり紙、 つかったらぜひくずかごへ!


参考文献

  1. 「ヒットを生む脳力/運より必然、ひらめき信じる楽観主義」, アエラ, 12, 45, 1999. 11. 1., pp.6-9.
  2. 「ヒット商品こう作る/商品開発担当者52人に聞く」, アエラ, 12, 45, 1999. 11. 1., pp.25-30.

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