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1999. 10. 17記

「コンクリートが危ない」
"Concrete in Danger"

購入商品一覧

  • 小林一輔: 「コンクリートが危ない」, 岩波新書, 新赤版 616, 岩波書店 (1999).
    お勧め度(★★★)

関連参考文献

  1. 尾池和夫: 「活動期に入った地震列島」, 岩波科学ライブラリー 33, 岩波書店 (1995).
  2. 「JR西 鉄道本部長更迭 社長らは減給処分 コンクリ再落下で引責」, 毎日新聞, 41995・6号, 1面 (1999. 10. 13).
  3. 「マンション寿命30年 ローン完済前に二十苦が襲う  コンクリート構造物を早死にさせる?! 内断熱」, 夕刊フジ, 9279号, 1〜2面 (1999. 9. 21).
  4. 「超インフレ来襲 郵貯流出、財政赤字限界→金利急騰……  住宅ローン破綻続出 とくに危ない変動金利型」, 週刊朝日, 104, 43, pp.22-26 (1999. 9. 24).
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最近の岩波新書には、 このような「扇情的」なタイトルが多いが、 こういうのは正直なところ気に入らない。 何か 「売らんかな」 の姿勢が見え見えなのである。 恐らくはこうしたタイトルは編集部の方針もあったのだろうと思うが、 それが奏功し、 本書の内容を元にした記事が刊行後すぐに週刊誌にて報じられたと記憶している。 まだ新幹線の事故の前であり、 原子力発電所などもヤリ玉に上がったが、 指摘された側の電力会社としては 「技術的には正しいけれど、 やたらに不安を扇るのはどうも…」 と当初は当惑気味だったようだ。

しかし、 この本の内容が決して扇情的ということでなく、 技術的に正確な警告であったことが、 本書の刊行後に連続して起きた一連の山陽新幹線の事故によって、 最悪の形で証明されてしまった。 刊行が1999年5月20日、 最初の大きな事故 (トンネル天井が剥がれ走行中の0系電車を衝撃、 パンタグラフ大破、 屋根破損) が6月27日だから、 何とも予言的なことになったものである。

本書の奥付によれば小林先生は現在確か千葉工大にいらっしゃるそうだが、 これ以前、 東京・六本木にある東大の生産技術研究所に在任しておられた当時、 施工不良のマンションや山陽新幹線の高架橋を調査されたそうだ。

山陽新幹線の高架橋については、 およそ15年ほど前にもコンクリートの劣化が問題になったことがあった。 1995年の阪神・淡路大震災の際にも、 壊れた高架橋のコンクリートの中から異物が出てくるわ出てくるわ、 ひどいものだと話題になった。

これらは基本的には国鉄時代の問題だと思うのだが、 現在施設を保有しているJR西日本の情報公開に関する姿勢にも、 強い疑問を呈さざるを得ない。 6月27日の事故ですでに詳しい発表が遅れ非難が出かかっていたし、 その後の対応はそれに輪をかけてまずかった。 6月の事故では 「コールドジョイント」 と呼ばれる施工不良箇所が崩壊したため、 そこを重点的に調査し、 8月4日に一度は「安全宣言」なるものを出したのに、 それからわずか2ヶ月後の10月9日に 今度は 「打ち込み口」 なる部分が崩壊しているのを発見。 列車に衝撃するなどの事態にはならなかったが、 「安全宣言」なるものが信用できないと思われてしまったのも仕方なかろう。 10月13日には鉄道本部長更迭という事態にまで発展してしまった (参考文献2)。

京都大学で地震学を専攻する尾池和夫教授は、 阪神・淡路大震災後の著書(参考文献1)において 「神戸側でどの断層が動いたか、 あるいは動いていないかという決め手が、 地震直後になかなか出てこなかったのは、 例えば新幹線のトンネルが活断層を横切っているのにもかかわらず、 中をすぐには見せてもらえなかったからです。 (中略) 活断層の専門家を修復工事が終わるまで立ち入らせなかったJR西日本の方針は、 わたしには理解できません」 (p. 58) と述べている。 現在起きているような事態から考えると、 当時も地震のせいで似たような 「見せたらまずい」 状況が何か現出していたのではないか、 と勘繰ってしまう。

新幹線以外にも、 コンクリートで作られたマンションなどに不良施工のものが多い、 という指摘がなされている。 幸い原子力発電所に関する不安は忘れられた格好である (施工管理が非常に厳しいから、 多分この面での不安はもともと少ないと思われる) が、 マンションは実際住んでいる人々がいろいろ問題があるのを知っているだけに、 その後も取り上げるマスコミが多い。 夕刊フジの記事(参考文献3)などその例である。 ちなみに、 どうやら夕刊フジのような夕刊紙はこのように以前週刊誌等で取り上げられたネタを目立った記事がない日に焼き直す、 というようなことをやっているようだ。 10月に入ってすぐのころに超インフレとかいう見出しが踊っていたが、 これもこれ以前に週刊誌に掲載されていたことの焼き直しなのであった (参考文献4)。


更新履歴

  • 1999. 12. 12 一部修正と関連ページへのリンク追加
  • 1999. 10. 17 初稿

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