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1999. 11. 29記
「脱ゴーマニズム宣言」購入商品一覧
関連参考文献
1999年9月1日の新聞各紙に、 俗に 「脱ゴー宣」 裁判と呼ばれている裁判において小林よしのり氏の全面敗訴を内容とする第1審判決が言い渡された、 というニュースが掲載された (参考文献1は朝日の例)。 判決内容に一部漫画家から懸念の声が上がっているが、 逆に漫画批評家からは歓迎する向きが多い。 訴えられたのがこの本、 「脱ゴーマニズム宣言」 で、 これを略して 「脱ゴー宣」 というわけだが、 高木がこの本を購入したのは裁判が始まってかなり後のことである。 正直なところ、 本自体は下らない内容だと思う。 批判本というのは、 批判の対象が低レベルであるとどうしても同じレベルまで降りていかざるを得なくなる。 実際、 「脱ゴー宣」 で批判された小林氏の 「ゴーマニズム宣言」 の内容はあまりに粗雑で、 批評に耐える性質のものではなかった。 お勧め度(★★)というのは、 この本や、 「脱ゴー宣」裁判を楽しむ会ホームページ (参考文献2)中にある「マンガに洗脳されてしまう若者たち」という文章 (参考文献3)にもある通り、 小林氏の「ゴーマニズム宣言」によって 「傷つけられた『精神の解毒剤』」 になり得るだろうからで、 「ゴーマニズム宣言」 を読んだことがないなら時間と金の無駄ということになる。 面白いと思うのは、 「脱ゴー宣」 を出版した時点で著者の上杉氏は訴訟をある程度覚悟していたらしいことである。 まあ考えてみると、 これより以前はこういうのは認められないことになっていた。 参考文献3において、 「新ゴーマニズム宣言」第55章 (『SAPIO』1997年12月26日号) 66頁第3コマからの引用として、 小林氏による以下のようなくだりが紹介されている。 参考文献3から孫引きするとこうだ: 盗っ人猛々しいとはそれに対し、 上杉氏はこの引用コマの中央部にある 「認められている『部分的な引用』は…」 の部分が大きな文字で 「目に飛び込むように工夫されていて、 背景にある多くの本は、 まるですべて彼の主張の論拠と感じるように巧みに配置されている」 とこのコマのトリックを解説したのち、 よく見ると 「業界の慣例として」 という文字があることに着目し、 このコマで小林氏は 「漫画関係者が相互の権益を守り、 もしそれに従わない者がいた場合、 業界の内部で仕返しするなど、 閉鎖的で談合的なシキタリがあることを述べているだけなのだ」 とまで述べている。 このような物言いからして、 上杉氏は早い段階で少なくとも 「漫画関係者」 からの反発は覚悟していたものと思われる。 しかし小林氏が言っていたこと自体も事実ではあるのだ。 高木自身、 学術論文の図の引用等においては同じような意味で気を使ったものである。 結果的に小林氏が裁判に打って出て、 上杉氏の主張がオーソライズされた恰好なのはよかったと思う。 こうした本を出版した上杉氏や東方出版の勇気には敬意を表すべきだろう。 もちろん、 裁判に打って出た小林氏の側についてもそうだろう。 もっとも、 判決が出てみると、 よくもまあ小林氏側がこんな粗雑な主張で裁判に打って出たものだと思わざるを得ない。 参考文献2に紹介されている判決要旨によれば、 小林氏側の主張は:
今回このような形で敗訴した小林氏は今後も 「ゴーマニズム宣言」 を続けることができるのだろうか。 まあ無理だろうな、 と思う。 実際、 昨年は 「ゴー宣」 と検索エンジンに入れて検索すると山ほど小林シンパのページが出てきたものだったが、 現在はそういうのを見つけるのは難しくなった。 思い出すのは数年前、 高木がまだ詩作をしていたころの話。 角川書店前社長・角川春樹氏が俳句を始め、 句集を出したまではよかったが、 その句集に対する批評を行った誰かに対し名誉毀損で裁判を起こしたことがあった。 このことを高木が知ったのは、 事件後とある評者が雑誌 「詩学」 誌上で角川氏が事件後新たに出した句集の紹介をした際である。 この評者は、 角川氏のこの新句集は 「より俳句らしくなった」 とか、 これまたすごい批評をした上で、 この批評を読む限り名誉毀損に当たるとは思えない、 としていた。 この後数年して、 角川氏が例のコカイン事件で逮捕されることになったのはご存知の通り。 まあ、 角川氏がこうだったから小林氏もコカインをやってるに違いない、 とかこじつけるつもりはないが、 このように正常な批評に裁判で応じるような輩はモノ書きとしては失格である、 という経験則を導き出すことはできそうだ。 「戦争論」 などの出版でまだまだ意気盛んらしい小林氏ではあるが、 この裁判での完膚なきまでの敗北は彼の今後に大きな痛手を与えずにはおかないだろう。 高木 亮 / TAKAGI, Ryo webmaster@takagi-ryo.ac (c) R. Takagi 1998-2001. All rights reserved. |